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【書評】『みちづれの猫』唯川恵著

 ■物語の余白埋める存在感

 ペットブームの昨今、とくに猫の人気は高く、猫と暮らして救われたという「猫もの」小説も多い。しかし本書は、そうした作品とは一線を画す。揺れ動く女性主人公たちの人生に焦点をあて、余韻がせつない、円熟味ある7編の短編集だ。

 「ミャアの通り道」は、かつて飼いたいと泣いてせがんだ猫が息をひきとりそうだと聞き、金沢の実家に向かう「私」が主人公。離ればなれになった家族の時の流れの中に猫がいることのぬくもりがぎゅっと詰め込まれていて、胸熱くなる佳品だ。直接的な猫の描写は少ない。それでもこの家族にとっての猫の存在感がくっきり感じ取れて胸に残る。

 「陽だまりの中」「祭りの夜に」「最期の伝言」には飼い猫は出てこない。しかし、家族のまわりに猫がいて、その気配が物語の余白を埋めている。3編ともだれかを許すことが作品の根っこになっていて、それを助けるのが猫の存在だ。

 著者は大の犬好きで知られ、大型犬を飼うために東京から軽井沢に移り住んだほど。インタビューによると、その愛犬が9年前に死に、大きな喪失感に陥ったとき、庭にくる野生の猫に救われたという。本書で猫たちが主人公とほどよい距離をとって描かれているのも、著者の経験からなのだろう。

 その軽井沢の風景も描かれ、深く印象に残ったのは、「残秋に満ちゆく」だ。猫嫌いの早映子のもとに、突然、30年前の恋人がたずねてきて物語が動き出す。生花店の経営者としてつつがなく暮らすことだけを考えていたはずが、過去の思いや後悔がうずき出す。恋愛小説の名手といわれる著者だけあって、化粧をするしぐさにも女心の揺れがリアルに浮かぶ。後悔とどう向き合うか、せつなさを前向きにとらえる姿にエールを送りたくなる。

 寿命の短い猫がそばにいることで、人は「死」を身近で自然なものと意識する。本書でも死や老いの影が色濃くちらつくが、どこまでもおだやかでやわらかい。また、幅広い世代の女性が出てくるのも魅力。自分に重ねあわせて読めるだろう。

 懐かしい家族と出会えたような短編集。ふっと肩の力を抜きたいときにおすすめしたい。(集英社・1500円+税)

 評・赤羽じゅんこ(童話作家)

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