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【ゴッホ展】「糸杉」 充ち満ちる画家の気迫 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《糸杉》 1889年6月 メトロポリタン美術館Image copyright (C) The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY
フィンセント・ファン・ゴッホ 《糸杉》 1889年6月 メトロポリタン美術館Image copyright (C) The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY

 もうずっと糸杉のことで頭がいっぱいだ。ひまわりの絵のように何とかものにしてみたいと思う。これまで誰も、糸杉を僕のように描いたことがないのが驚きだ。その輪郭や比率などはエジプトのオベリスクのように美しい。それに緑色のすばらしさは格別だ -1889年6月25日、弟テオへの手紙(サン=レミにて)

 燃えさかる炎のように、天へとのびる糸杉。まわりの野原も、遠くのアルピーユ山脈の山々も、青空も白い雲もすべて、荒々しく渦巻くように描かれている。右の空にはなぜか三日月が輝いている。

 縦約93センチ、横74センチの大作。画面の隅々まで、画家の気迫が充(み)ち満ちている。

 サン=レミのある南仏プロヴァンス地方に行くと、糸杉にオリーブ畑、ブドウ畑が点在する典型的風景に出会えるだろう。ゴッホも糸杉の美しいプロポーションに魅せられ、古代エジプトの神殿にあるオベリスク(記念碑)のようだと記した。

 ヨーロッパで糸杉は死や喪の象徴とされ、キリストが磔(はりつけ)にされた十字架もこの木で作ったという伝説がある。一方で樹齢が極めて長く、生命や豊穣のシンボルでもあるそうだ。いずれにせよ死の前年、ゴッホが生と死を象徴する糸杉を繰り返し描いたのは、単なる偶然だろうか。

 自然を前にすると、気を失うまでに感情が高ぶったり、自分の無力さを感じたりすると、ゴッホは手紙に書いている。発作の恐怖におびえつつもなお、ゴッホは絵筆を握り続けた。自然へのあふれるほどの感動や自己の苦悶をすべて、キャンバスにぶつけるために。唯一無二の「ゴッホの絵画」が完成したのは、サン=レミ時代だった。(黒)    ◇

 「ゴッホ展」は上野の森美術館(東京・上野公園)で来年1月13日まで開催。

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