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【ビブリオエッセー】「一粒の麦」と菜の花 「カラマーゾフの兄弟」ドストエフスキー

 結婚記念日になると思い出すことがあります。新約聖書にあるヨハネ12章24節です。そこにはこうあります。

 「よくよくあなたがたに言っておく。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる。」

 初めてこの聖句を目にしたのは、18歳の時に読んだ『カラマーゾフの兄弟』でした。冒頭に書かれていたのです。信仰の問題を扱ったこの大作は難解でしたが、とりわけ「大審問官」という章に衝撃を受けました。無神論者のイワンがこう問います。

 「もし神が存在するとするならば、どうしてこの世界に悪は存在しているのか?」

 その時からイワンの問いを自問してきました。

 25歳でクリスチャンになり、結婚して妻が妊娠しました。生まれてくる子の性別もわからない時になぜか女の子という確信がありました。名前を考えていると、ふとこの聖句が浮かび、あるイメージが鮮明に現れたのです。一面に群生する菜の花でした。

 派手な花ではありません。しかし菜の花はそれだけで見ている人の気持ちを穏やかにします。さらに油がとれ、花は食用にもなるのです。

 自己犠牲-それは他人を救うことによって自分が救われること。その人がいるだけで周りが嬉(うれ)しくなるような、人への奉仕に幸せを感じられるような、そういう人になってほしいと願いました。

 たった一度だけ読んだ『カラマーゾフの兄弟』。聖句とともに鮮烈な記憶がよみがえり、生まれた女の子に菜々花(ななか)と名づけました。

 大阪市西区 長野美樹 58

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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