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【書評】『しらふで生きる 大酒飲みの決断』町田康著 正気と狂気を行き来する

『しらふで生きる 大酒飲みの決断』町田康著
『しらふで生きる 大酒飲みの決断』町田康著

 パンクバンドのボーカリストから作家に転じた町田康が、「酒をやめると人間はどうなるか。或(あ)る作家の場合」と文芸誌に連載したエッセーの単行本化。酒断ちのモデルケースだが、なにしろ元パンクロッカーで饒舌(じょうぜつ)な文体と内容、疾走感で鳴らす作家である。一般人の“体験談”を想像してはならない。

 町田の酒飲みレベルは、〈日本酒で言えば一升を飲んで、ドカベンの物真似(まね)をしたり、ギターを爪弾(つまび)きつつ「港町ブルース」をエスペラント語で歌う〉くらい。こんな飲み方を30年間、1日も休まず続けてきた。が、平成27年12月末をもって酒をやめる。全身の倦怠(けんたい)感、背中の痛みなど、“沈黙の臓器”肝臓が悲鳴を上げたためだが、一方で、〈人生の寂しさと短さを酒なしで味わおうと思った〉。小説家の業(さが)である。

 町田が酒飲みの大先輩とあがめる古代の歌人、大伴旅人は〈生きていくにあたって最も重要なのは酒を飲むことであって、それ以外のことはたいした問題ではないし、もっと言うと、どうでもいい問題であると、言い切っている〉。

 町田も、酒を飲むことが正気で、酒をやめたことは狂気なのだという。人間はいずれ死ぬのに、節制など卑怯(ひきょう)ではないかとも。こうして酒を飲む意味、やめる意味を追求。しばしば話は逸脱し、無限に広がり、哲学的にも処世訓的にもなる。

 小説家の想像力、創造力の広げ方、飛び方が興味深い。読み進むうちに、その混乱、錯綜(さくそう)した思考の内部を漂いさすらう脳内旅行の体験ができる。

 後半には、「酒をやめると人生の真のよろこびに気づく」と妙に姿勢を正す。禁酒のメリットとして、ささいなことに喜びを感じる▽ズクズクになっていた脳髄のアクセス回路が回復して仕事がはかどる▽酒の出費がなくなる経済的効果▽暴飲暴食をやめたダイエット効果-などが並ぶ。

 そして正気と狂気の間を行ったり来たりの末にたどり着く境地とは…。作家の脳内旅行を楽しむもよし、禁酒・断酒の背中を押してもらうもよし。ちなみに、評者も酒を断って15年。本書を読み、自分はそれほどの酒飲みじゃなかったかとホッとしたり、さみしかったり-。(幻冬舎・1500円+税)

 評・旭利彦(フリーライター)

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