【この本と出会った】シンガー・ソングライター・家入レオ 『男ともだち』わたしに光をくれた

子供の頃からそうだった。心動かされるものに出会ったとき、わたしはどうしても傷付いてしまう。それが圧倒的であればあるほど、高揚し尊敬すると同時に、自分はこんなところで何をしているんだろう? と徹底的に打ちのめされてしまうのだ。
母は泣きじゃくるわたしの肩を抱きながら、すごいなぁ、すてきだなぁってそれで良いじゃない。あなたはあなたよ、それだけですばらしいの、といつも不思議に明るく諭してくれた。
そんなわたしが東京で生きることは大げさでも何でもなく死を意味することだった。フットワークさえ軽ければ面白い人にも美しいものにも出会える。そう信じていたから、行動しなくてはと常に駆り立てられ疲弊していた。
国も性別も価値観も時代も、全てがごちゃまぜのいっしょくたになったこの街は、けれどわたしの心を離さなかった。もうダメかも、って時にやっぱりわたしには歌うことなんだ、と最後には教えてくれるからまだここにいる。
『男ともだち』の主人公、神名葵は29歳のイラストレーターだ。描いて、描いて、描いて必死に未来をつかもうとしているイラストレーター。彼女は写真展で、ある作品を見て、声もださず、涙も拭かず、にらみつけるみたいに泣いていた。
彼女もわたしも、人並み以上に自意識がある。なぜ、心動かされるものに出会ったとき、わたしたちは傷付いてしまうのだろうか。それは、わたしたちがわたしたちに期待しているからだ。
「俺、昔からお前のこと嫌いだったよ。自分だけは違うって顔してたんだよね」。大学の同窓会で神名葵に言い放たれた言葉を読んで、わたしは思わず目を閉じた。