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【私の本棚】『クオレ』デ・アミーチス著 数学者、エッセイスト・藤原正彦さん

数学者の藤原正彦氏=東京都武蔵野市(寺河内美奈撮影)
数学者の藤原正彦氏=東京都武蔵野市(寺河内美奈撮影)
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 ■子供心に刻んだ惻隠の情

 子供の頃から本が大好きで、小学校4年のときに読んだ少年少女向け文学全集の中に「クオレ」(岩波文庫版では「クオーレ」)がありました。19世紀後半、小国分裂から統一されたばかりのイタリアの小学校生活を描いた小説で、先生が語った話として「母をたずねて三千里」や「難破船」なども収められています。

 愛国心や弱い人を思いやる惻隠(そくいん)の情、家族愛、卑怯(ひきょう)を憎む心などの大切さが小学校生活を通して語られ、大いに感動しました。特にガルローネという少年が、いじめられている行商人の息子を守って助ける話に心を動かされ「弱い立場の人は必ず助けよう」と決心したものです。

 感動の背景には、父(小説家の新田次郎さん)の教えと全く同じだったことがあります。幕末生まれの曽祖父に武士道精神で育てられた父は、私にもそんな教育をしました。弱い者がいじめられていたら力を使ってもいいから助けろ。見て見ぬふりは卑怯者だ。クオレはその教えを再確認させてくれた。このときから私の生き方は変わっていません。

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 たとえば私は、規制を撤廃して地球規模で自由に競争しようというグローバリズムに反対です。自由で公平な競争といいますが、強者と弱者を同じ土俵で戦わせるのは惻隠の情がない卑怯なやり方だと思う。その意味で、私の中でクオレの影響は今も生きています。

 ただ35歳のとき、原稿に書く必要があって読み返したら、全く感動しなかった。感動する力がなくなったのかと残念に感じましたが、小学生で読んでおいてよかったとも思いました。年代ごとに読んでおくべき本というものがあるのですね。

 だから人生の方向が定まる前の小中学生は、とにかくたくさん本を読んでさまざまな文学作品に触れ、感動的な話や美しい話に涙を流す経験をしてほしい。そこで育まれた情緒は、人生を生き抜く上で大切な宝物になるはずだと思います。

【プロフィル】藤原正彦

ふじわら・まさひこ 昭和18年、長野県出身。東大院修了。著書に「若き数学者のアメリカ」「国家の品格」など。平成16年に正論新風賞。

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