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【親子でわくわく かがく絵本】「こわす こうじのえほん」 音の面白さとの出合い

 昔、私が住んでいたマンションの前の建物が取り壊されるとき、近所の子供たちが集まってきて、その様子に見入っていました。私も彼らの横に並んで一緒に眺めてみると、物凄(ものすご)い音を立て、まるで生き物のように動く大型重機に目が釘付(くぎづ)けになりました。壊されていく建物に、どこかはかなさを感じながらも、黙々と働き続ける重機に子供たちが「すげぇ」と声をあげるのに納得しました。あの時の臨場感を、工事の工程とともに変化する重機の種類や現場の音、塵(ちり)や砂埃(すなぼこり)まで、思いだせる本があります。

 平成31年に福音館書店から刊行された『こわす こうじのえほん』(サリー・サットン作、ブライアン・ラブロック絵、新谷祥子訳)は、ニュージーランドの建物の解体工事の現場を描いた絵本です。

 工事現場の工程やそこで使われる重機や働く人々が上や下、横から、さまざまな角度で描かれています。文章では工事の様子がリズミカルな言葉やユニークなオノマトペ、つまり擬音語や擬態語で表現されています。文字の大きさや太さ、配置や角度を変えることで、まるで文字が躍っているかのように音を視覚的に感じることができます。平仮名とカタカナの感じ方の違いにも気づかされます。

 訳者の新谷さんは打楽器奏者です。楽器を限定せず、金属、鉄、廃材、石、植木鉢など身近にあるさまざまなモノを打ち、その音に心を傾けて聴き、音を探求してきた新谷さんは、絵本の翻訳にあたり、実際の工事現場や重機ショー、コンクリート研究の大学研究室まで出かけ、新たな音を探してきたそうです。だからこそ、英語から、躍動感あふれる日本語の音が紡ぎ出されています。

 絵本の最後、工事が終わった現場には土が現れ、緑あふれる公園が造られます。工事の喧騒(けんそう)は消え、そこに集う子供たちの声が聞こえてくるようです。同時に刊行された『たてる こうじのえほん』と読み比べてみると、さらに音の面白さに出合えることでしょう。

(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)=次回は12月13日掲載

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