【日本人の心 楠木正成を読み解く】第4章 現代に生き続ける「楠公さん」 6
「昭和10年5月には、滝町で滝覚600年遠忌が盛大に執り行われました。滝覚の祖先である和田氏の墓所に、石柵や標石が建てられたのもそのころです」
和田氏の居館があったとされる辺りに立つ津島神社の宮司、栃原俊夫さんはそう話す。同年、近くの丘には大楠公600年忌を記念した供養塔も建てられ、法要に1500人が参列した。静かな集落が、大いに賑(にぎ)わったことが想像できる。
津島神社には、滝覚の木像が伝わる。飛騨の一刀彫り「一位彫(いちいぼり)」で、滝町のイチイの木が使われている。
また、高山の中心部にある天照寺には、滝覚像と同じ時期に彫られた正成像がある。
「観心寺から、風で折れたクスノキの枝をもらい受けて彫ったものです」
天照寺住職の銅島大衍(どうじま・だいえん)さんはそう説明する。それぞれ、故郷の木を材料にしていることは興味深い。