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【ビブリオエッセー】時空を超える「本歌取り」 「カムパネルラ」山田正紀(東京創元社)

 宮沢賢治の世界には独特の雰囲気がある。だから賢治作品をもとにした“本歌取り”のような作品は数多い。あの『銀河鉄道の夜』の主人公、ジョバンニの親友の名を題名にしたこのSF版『カムパネルラ』はどうなのだろう。

 まず『銀河鉄道の夜』とは雰囲気が違いすぎる。ぶち壊しだとかイメージが壊れたと怒る人もいるかもしれない。ただ私はこれを一気に読み、面白いと思った。『銀河鉄道の夜』は好きで何度か読んでいるのだが以前からかすかな違和感があった。それが、この小説を読んで、ああ、そういうことかもしれないと思い当たったからだ。

 それは、この作品の読み方の定番となっている自己犠牲賛美に対する違和感だ。本当に賢治のテーマは自己犠牲だったのだろうか。

 『銀河鉄道の夜』は何度も書き換えられたいわば未完の作品である。賢治がもう少し長く生きていたら、また書き換えていたかもしれない。しかも、そもそもファンタジー小説である。ジョバンニが夢をみている間にカムパネルラが水死したという現実的な読み方以外に、ファンタジーとしての読み方もできるのではないか。二人は本当に銀河鉄道で夜空の旅をしていたのだというように。

 さらに想像を進めれば、第四次改稿版をめぐる電脳世界を描いた本作のようなSFもできるかもしれない。名作には様々な読み方と様々な解釈がある。そういうことに改めて気づかせてくれる『カムパネルラ』は、本歌取り小説の佳作なのだろう。

 東京都港区 J・T 65

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