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【人生相談 あすへのヒント】安定を捨てるのは無謀?

 □回答者・山本一力

 都内の女性会社員。暮らせるだけの給料をもらい、仕事に大きな不満はありません。でも近い将来、人の健康を助ける仕事をしたいと考えていて、その勉強のために退職を検討しています。友人に相談すると「かなうかも分からないことのために、辞めるのはもったいない」と言われます。正論ですし、老後のことを考えると、私も気持ちが揺らぎます。

 矛盾しますが、今の仕事も大切です。不器用なので、仕事しながら資格の勉強に時間を割くことはできません。貯金と退職金で、学費と2、3年分の生活費はまかなえそうですが、勉強し終わるころには50代。安定を捨てるのは無謀でしょうか。再出発には遅すぎるでしょうか。(東京都、40代女性)

 おやめなさい。

 安定を捨てるのは個人の自由だし、再出発に遅すぎもしない。

 あなたが中途半端であるゆえに、ことはうまくは運ばない。で、おやめなさい。

 決めつける理由を挙げさせてもらう。

 毎月定まった報酬が得られることへの、認識の甘さ、感謝のなさだ。

 勤務する会社は、慈善事業者ではないはずだ。暮らせるだけの給料を支払う代わりに、当然、相応の仕事をこなし、その仕事と向き合うときの真摯(しんし)な忠誠心を、会社は期待しているはずだ。

 あなたはそれに応えているのか。

 当節では従業員解雇には、さまざま制約がある。しかしあなたが隠し持つ真意を知った会社は穏やかではなくなるは必定だ。

 あなたと同じことを考えて、本気で突き進もうとする者は、すでにやっている。

 退路を断ち、前進のみに自分を置く。いまさら、迷えるぜいたくなどない。

 毎月給料を得るとは、なんと幸せか。

 物書きのわたしを、世間では「直木賞作家」と評してくださる。しかし実態は、潜在的失業者にほかならない。

 原稿注文がなければ、収入はない。

 続けて注文をいただけるように。

 読者に新刊を購入してもらえるように、ひたむきに今日も原稿を書いている。

 5分で読了できる原稿執筆に、ときに半日を費やす。きついが、書いているときが一番、気持ちが安らぐ。

 あなたは今日も会社運営に貢献しているとの、肌に感ずる実感はおありだろうか。

 今月も給料をくれる会社のために何ができるか、自分に問うていただきたい。

 明日、退職勧告の肩たたきを突然されたとしたら。安定を捨てるか否かの選択権など、もはやあなたの手には残っていない。

■回答者・山本一力

 作家。昭和23年生まれ。平成9年「蒼龍」でオール読物新人賞を受賞しデビュー。14年「あかね空」で直木賞受賞。近著に「牛天神 損料屋喜八郎始末控え」(文芸春秋)、「長兵衛天眼帳」(角川書店)、「ジョン・マン7 邂逅(かいこう)編」、文庫本「ジョン・マン5 立志編」(ともに講談社)など。

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