PR

ライフ ライフ

【書評】『どうしても生きてる』朝井リョウ著 市井の人々の胸中を描く

『どうしても生きてる』朝井リョウ著
『どうしても生きてる』朝井リョウ著

 動物や赤ちゃんを見ると無条件に心がほどけ柔らかになる。無敵である。かつては誰にもあったはずのそのやわらかさやシンプルな強さは、成長するにつれて厳しい現実に摩耗されていく。だが、私たちはそこでも『どうしても生きてる』~どうしても生きなくてはならない。

 『桐島、部活やめるってよ』でデビューし、就職活動を通した若者の姿を描いた『何者』で平成生まれ初の直木賞を受賞した朝井リョウの最新作である。6編からなる短編集、どれもが今の時代を読み取ったストーリーで、SNS・QRコード・ユーチューバー…と最新ツールが盛り込まれている。しかし、だからのリアルではない。劇的な展開や特異なキャラクターは登場せず、そこにもここにもいる私たちのリアルな世界である。

 うまくいかない日常や直視したくない問題を乗り切るために半径5メートル以内のルーティンワークやスマホ、さらには異性に目をそらして自分を守っている人物たち。たとえば派遣社員ゆえの不本意さを昼休みに意味のない動画を見続けることで保つOLの切ない姿。たとえば現実に流され、漫画の相棒・妻・独立を約束した相手を裏切る形になった男は、常に後悔の小さな小さな囁(ささや)きが脳内に木霊(こだま)する。  読者はきっと本の中に自分を見つけてどぎまぎしたり、日頃抱えているが、言葉に当てはめることのできない気持ちやかかわりが掬(すく)い取られスルリと言語化されていることに共鳴するだろう。

 6番目の話、「籤(くじ)」は大劇場のフロア長を任され観客とスタッフを一手に仕切るみのりが主人公。仕事を一歩離れると実は小さい頃からずっと“ハズレくじ”を引いてきた人生だ。男女の双子に生まれ、女性であったばかりに家事を押し付けられ、進学を譲り生きてきた。やっと仕事と結婚で自分の人生を歩み始めた矢先に249分の1の確率で障がいを持った子供を妊娠していることが判明する。彼女は引いてきたくじを運命としてあきらめるのか、それらを自分の強さに変えていくのか。

 『どうしても生きてる』~どうやっても生きてやると前を向いたみのりと一緒に、読み手の心は解放されていく。スーと息ができるようになっていく。(幻冬舎・1600円+税)

 評・中原かおり(詩人)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ