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【書評】『お金本』左右社編集部編 作家たちの貧しい時代

『お金本』左右社編集部編
『お金本』左右社編集部編

 本書には、文豪といわれる小説家や、その周辺の人たちのお金に関する短い文章が集められている。

 小説家は、とにかくお金がない。夏目漱石から石川啄木、芥川龍之介、内田百●、太宰治、石原慎太郎に村上春樹、みんな金がない。というか、金がない時代があった。それをそれぞれの言葉で吐露している。けっこう身につまされる。

 百編近くの文章が収録され、短い随筆が中心であるが、手紙や日記なども掲載されている。

 萩原朔太郎が友人の室生犀星に出した手紙が、印象に残る。昭和4年、彼はまもなく新潮社から出る「現代詩人全集」の朔太郎・犀星・高村光太郎の巻の印税をあてにしていたのだが、犀星は自分たちの巻をあとにして、友人の福士幸次郎が入った巻を先に出してやってくれと新潮社に提言した。

 福士の困窮を見かねてのことのようだ。それに対し、朔太郎は何てことをしてくれるんだと怒っている。僕もすぐに金が要るのに、余計なことをしてくれたものだ、恨んでいるよ、とそれだけのことを言うために友人の犀星に手紙を出している。

 死後、こんなものを公開されてはたまらないと思うのだが、そのぶん、すごく人間味を感じる。私は朔太郎の詩がとても好きなのだが、こういう人柄から出てくる言葉が好きなんだろうな、と納得してしまう。

 吉行淳之介のバーのトイレでのエピソードや、角田光代の家計簿の話も心に残る。エピソードから感じられる作家の人柄が好ましいからだろう。

 いろんな作家たちの交流も描かれる。金田一京助は同じ下宿にいた啄木のために蔵書を売り払っている。東大生だった太宰が退学になったのを故郷に知られないために森敦と檀一雄は青森の家にうそを書いたはがきを送った。吉屋信子は田村俊子に頼まれ、菊池寛へ金を借りに行ったのだが、断られる。

 慎太郎は10円のジャムパンと5円の甘食で過ごした日のことを書いているし、春樹は道に落ちていたお金を拾った話をしている。みんな大変である。

 貧しい時代があったという話を通して、みんな、どういう覚悟を持って生きていたのかを知ることができる一冊である。(左右社・2300円+税)

 評・堀井憲一郎(コラムニスト)

●=間の日を月に

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