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【ビブリオエッセー】腐敗する権力、全体主義の恐怖 「一九八四年」ジョージ・オーウェル著 高橋和久訳(ハヤカワepi文庫)

 一九四九年に刊行の近未来小説。その翌年死去したオーウェルは刊行の三十五年後、一九八四年の全体主義国家、オセアニアを描いた。

 完全な監視社会だ。党員の家庭には真理省直轄の双方向テレビがある。プロパガンダを送りつけ、家庭内での言動や小集会の映像、音声をチェック。外の世界には盗聴マイクが随所に。国民を監視するヘリが飛び、あるいは空中停止している。街のあちこちには独裁者、ビッグ・ブラザーの肖像ポスター…。

 ここでは新語法(ニュースピーク)を強要され、不都合な言葉は廃棄、文書や数字、歴史は大きく改竄される。密告が推奨され、結婚には委員会の承認が要る。死んだ人間の存在記録は直ちに抹消、非存在とされる。プロールと呼ばれる下層階級は識字率も低く奴隷並みの生涯を送る。

 実際の一九八四年当時、各種の装置を除き、独裁体制の予測はほぼ当たっていた。さらに三十五年後、二〇一九年の現在は、日進月歩のAI技術、個人情報解析の能力も高まり、いたるところに監視カメラが。本人認証技術やドローンは珍しくもない。完全な管理社会が近づいている。

 体制に疑念を抱いていた真理省中堅職員の主人公は愛情省の思考警察に逮捕され、強制収容所に送られる。拷問を受けて解放されるが、最後は自分が情愛あふれる指導者を誤解していたのだと悔やみ、洗脳されきって死も受け入れる生ける屍に-。

 文庫の帯にあった「権力は腐敗する」を肝に銘じたい。さらに三十五年後の二〇五四年に、わが世の春を謳歌する独裁者を生まないために。

 兵庫県伊丹市 穂積紘道75

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