PR

ライフ ライフ

【書評】『〈災後〉の記憶史 メディアにみる関東大震災・伊勢湾台風』

 ■どう継承、忘却されるか

 毎年、8・15や3・11はニュース番組を見ずに過ごすようにしている。毎年繰り返される画一的な周年報道にうんざりするからだ。そんなことを口にしても「非国民」となじられることがない現代人は、やはり幸せかもしれない。

 そう実感したのは本書を読了したからだ。本書によれば、戦前の震災記念日は来るべき空襲に備えて国民が訓練に動員される日とされていた。見方を変えれば、戦時動員こそ関東大震災の記憶を下支えしていたというのである。「忘れてはいけない」を連呼する昨今の人道的な周年報道に居心地の悪さを感じるのは、手法的な面で戦時動員と通底しているからだろう。

 本書は災害自体ではなく、こうした災害の記憶を扱った歴史研究である。災害の記憶はどのような要因で継承され、あるいは忘却されるのか。新聞報道を丹念にひもとくことで著者が見いだしたのは、被害規模とは無関係に地震被害だけが繰り返し強調される報道のアンバランスさだった。

 単純に被害の大きさでいえば、1995年まで戦後最悪の災害は59年の伊勢湾台風だった。しかし、伊勢湾台風を契機に「防災の日」が制定されて間もない時期の社説ですら、全国紙は台風ではなく、地震への備えを強調する。迫りくる大地震と地震予知の可能性ばかりが語られる科学信仰の時代にあって、台風の記憶はついに国民的記憶とはなりえなかったのである。

 本書の最大の特徴はこうした記憶のダイナミズムを時間と空間の両面から検証していることだ。直接損害を受けた地域とそうでない地域の間にある歴然たる記憶の格差。それは、均質な時間と均質な空間を想定するわれわれの国家観を激しく揺さぶる。のみならず、「忘れてはならない」とされる国民的記憶の裏には必ず国民的忘却が横たわっていることをも雄弁に語っているのだ。

 天災は忘れた頃にやってくる。この言葉は不意に襲ってくる災害の恐ろしさに言及しているようにみえる。しかし、この警句の比重はむしろ「忘却」の方にあるのではなかったか。人は忘れる生き物である。だからこそ、本書の問いは普遍性を帯びているといえよう。(水出幸輝著/人文書院・4500円+税)

 評・長崎励朗(桃山学院大学准教授)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ