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【評伝】木村汎さん、対露外交に強い懸念 若い研究者の手本

木村汎氏(川口良介撮影)
木村汎氏(川口良介撮影)

 14日死去した本紙正論メンバーで、ロシア研究の大家、木村汎氏は実にちゃめっ気あふれる人物だった。

 平成29年、第32回正論大賞の贈呈式に出席するため上京した際、東京駅で出迎えた若手記者が手荷物を受け取ろうと手を伸ばすと、いきなりその手を握ってきた。びっくりする若手記者の反応を、にやりと笑いながら楽しんでいた。

 関西人らしく、根っからの阪神ファン。「阪神がピンチになると、書斎をウロウロし始める」。「阪神が勝ったのか、負けたのか。ニュースを見なくても主人をみていればすぐ分かる」とは、奥さんの典子さんの証言だ。

 パソコンがまったくできない木村氏の手書き原稿を打ち直していたのが、典子さんだった。ロシアのプーチン大統領を徹底解剖した超大作『プーチン 人間的考察』『プーチン 内政的考察』『プーチン 外交的考察』(藤原書店)の、いわゆる「プーチン3部作」について、「最大の功労者は妻。妻には頭が上がらない」と語っていた。

 今年6月に、『対ロ交渉学(歴史・比較・展望)』(同)を出版。倒れた後、文章を書いたり、読んだりしてはいけないとドクターストップになったことが「生涯最大の苦痛だ」と漏らしていた。

 日本固有の領土である北方四島を不法に占拠しているロシアについて、「ロシアはそうは思っていないかもしれないが、私ほどロシアを愛している研究者はいないのではないか」とも語っていた。

 同じロシア研究者の袴田茂樹氏は「強い問題意識がなければ、これほどの仕事はできない。若い研究者たちによい手本を示された」と述べた。

 正論大賞受賞スピーチの最後には、長男がもっていた野村克也監督の色紙に「生涯一捕手」と書いてあったことを紹介し、「生涯一ロシアウォッチャーとして命をまっとうしたい」とたとえた。

 その木村氏は、北方四島一括返還の旗を降ろしてしまった安倍政権の対露外交に「プーチン氏の方がはるかに狡(こう)猾(かつ)。日本の対露外交はこのままではまずい」と厳しい目を向けていた。ロシア研究に命をささげた大家からの遺言である。(元モスクワ特派員 内藤泰朗)

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