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【書評】コラムニスト、翻訳家・山崎まどかが読む『ひみつのしつもん』岸本佐知子著

『ひみつのしつもん』岸本佐知子著
『ひみつのしつもん』岸本佐知子著

■未知の世界へ誘う仲介者

 岸本佐知子は耳がいい。

 いや、本当に聴覚がいいかどうかは知らない。しかし彼女の翻訳している数々の海外小説を読むと、私には作者や、登場人物たちの言葉がはっきりと声になって聞こえる。それは英文から岸本佐知子が聞き取り、聞き分け、すくい上げたボイスだ。

 そんな性能のいい耳を持っている人は、他の人の気がつかないことをキャッチしてしまう。それは一瞬の感情の中にあるのに、聞き逃してしまう自分の声のこともあれば、この世界にうっかり入り込んだ異物のような不協和音だということもある。

 本書に収録されたようなユニークなエッセーに関して「妄想が暴走している」という表現がなされることがあるが、私は違うと思っている。収録エッセーの「カブキ」に描かれているように、彼女は歌舞伎の劇場で白人男性の二人組を見ると、彼ら(ボブとサム)の見ている日本の伝統芸能のディテールの疑問が本当に聞こえてきてしまうのだ。そして一回、ボブとサムの声に周波数が合うと、もうボブとサムの声は岸本佐知子の中に住みついて帰ってくれず、あらゆることに説明を求めるようになる。

 台風一過のベランダでは、倒れて中からドロドロした液体が流れ出した物干し竿(ざお)とドロドロの液体、両方の意識にとっさにチャネリングしてしまう。締め切りに遅れそうになると、自分の尾てい骨に乗った小さな黒澤明がカチンコを鳴らす音が聞こえる。これが「ケツカッチン」である。その音がうるさいので、着ているスカートの中に黒澤明を包んでしまう。これが「ケツをまくる」という状態である。

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