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【文芸時評】11月号 早稲田大学教授・石原千秋 「いま」を書いているか

 松浦寿輝が、石川淳や森鴎外の個人全集をヤフーオークションで落札したら、思ったよりもずっと安く手に入ったので複雑な気持ちになったと書いている。「文学界」の最終ページはこの人の「遊歩遊心」というコラムの連載になったようだ。その2回目。何をいまさらという気がした。そんなことはもうずっと前からだし、そもそも文芸雑誌を読むほどの読者がそれを知らないはずはない。神田神保町の古本屋街に行けばわかるが、個人全集などは「置く場所がないから持ってけ泥棒」というような値である。滑稽なのは、それをまるで他人事のように書いていることだ。「安いのはあなたの小説も同じですよ」と誰か教えてあげた方がいい。

 今月は新人賞の月である。仮に新人の受賞作が単行本になっても、いまや3000部がやっとという時代である。印税は50万円にもならないだろう。これでは食べていけない。文学が世間から退場を宣告されている時代に、まだ入場しようとする新人がいるから不思議だ。なんらかの形で「いま」を書いてほしいと思う。

 ところが、新人賞受賞作は同じようなテーマばかりである。ミシェル・フーコーは〈近代は性的な言説がその人を語る真実の言説となった時代である〉という意味のことを言っているが、まさにその通りなのである。明治期に、進化論を通じて女性も男性と同じ人類であることを「発見」した知識人は、さかんに女性について書いた。その時代の関心事は女性の体にあった。女性の心への関心もあったが、それは「謎」という一言で語られた。いままた女性の体についてさかんに語られ始めているようだ。もちろん、明治期とはちがった「真実」が語られている。新人賞なのにどこか古風で近代であるようでもあり、現代が顔を見せているようでもある。

 文藝賞は、宇佐見りん「かか」と遠野遥「改良」の2作受賞。

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