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【理研が語る】きっかけと原因とスパコン

 私は、ふわふわした女子学生だったらしい。目についたものをすぐに試したがり、就きたい職業がすぐ変わるようなありさまで、親や恩師を困らせた記憶がある。そんな中、今の仕事に就くきっかけを振り返ると、高校時代の恩師が推していた大学になんとなく入学したことに行きつく。

 なんとなく入学した割には、大学は楽しかった。長野県の田舎町の出身で、幼少期は身近な植物や虫が遊び相手であった。季節ごとに変わる植物の遊び方、トンボやカミキリムシの捕獲法を一人で試行錯誤していた。特にカミキリムシは、養蚕をしていた祖母にとっては害虫であったため、捕獲数に応じたお小遣いをくれた。そんな環境や経験が、自然科学の世界に導いたのかもしれない。いや、自然が好きだからこそ、そんな環境や経験を選択したかもしれない。きっかけは明確に特定できるが、何が原因かを知ることは、自分のことでも難しい。

 大学院を修了した後、タンパク質の働きを研究してきた。タンパク質は生き物が「生きる」ための活動を担っている。その多くは、薬物などの刺激が「きっかけ」となり、タンパク質がある形から別の形へと変化すると考えられている。コンピューターシミュレーションは、タンパク質や周りの物質との間の相互作用と、そこから生まれる動きを計算する。刺激や実験条件を変えた計算結果と比較することで、原因も解析可能となる。

 しかし、原因を知ることはここでも簡単なことではない。ほんの小さなタンパク質一つでも、関わる原子の数は数十万を超える。変化の始まりから終わりまで見届けるのは、普通のコンピューターではもはや不可能である。そこで、スーパーコンピューターの計算能力が必要となる。スーパーコンピューターを用いた計算を目指すのは、必然だった。

 現在、タンパク質の研究と並行して、スーパーコンピューター「富岳」の開発プロジェクトでシミュレーション手法の開発を行っている。この数年、多くの優秀な研究者・技術者と議論し、苦悩し、試行錯誤の末に学び取ってきたものが形作られている。いまだに模索中の部分も多いが、それも含めて今も楽しんでいる、のかもしれない。

 岩橋(小林)千草 (いわはし<こばやし>・ちぐさ) 理化学研究所計算科学研究センター、粒子系生物物理研究チーム・研究員。名古屋大学大学院理学研究科で博士(理学)を取得。平成25年より現職。専門は生物物理、計算化学。

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