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【ビブリオエッセー】「聖地巡礼」のバイブル 「万葉の旅」犬養孝(平凡社ライブラリー)

 中学生の頃、その名も『万葉の旅』という番組がテレビで放送されており、夢中で見ていた。「本もあるから読んでみたら」と、母に買ってもらった思い出の本だ。 

 今で言う「聖地巡礼」だろうか。『万葉集』に登場する土地と歌を奈良は明日香から九州、東国、北陸、山陰とつぶさに紹介してゆく。気分は約1300年前と現代を行き来する机上旅行。当時、現代教養文庫の3巻セットはちょっと贅沢(ぜいたく)な箱入りだった。 

 草ぼうぼうの峠道や開発で見る影もない場所もあるが、いにしえの道は辛うじてその痕跡を残している。失われてしまわないうちにと、歌の面影を追い、故地を探索し続けた犬養博士の情熱は私の旅心をいたく刺激した。

 想像を巡らせば古代の叙情は山の四季や野の花、瀬の響きや海浜の風音の中に充分に感じ取れる。そこに、かつて生きていた人々の生活や感情を重ねてみる。

 市が立ち、恋も生まれた三輪山の山麓、非業の死を遂げた弟を思う皇女の悲しみが宿る二上山。琵琶湖畔では失われた都を偲び、伝説の姫が恋人との別れに領巾(ひれ)を振った唐津の海山を、防人たちと家族の悲哀を、編纂者の一人とされる大伴家持の見た因幡の言祝(ことほ)ぎの雪を。

 本文に添えられた昭和30年代のモノクロ写真の数々も、「旅を始めた当時はこんな風景だったのか」と思わせる貴重な記録だ。歌の世界は現地の風景にまみえることで生き生きと輝き出す。よし、また“万葉巡礼”に出かけよう。この本をバイブルとして。

  堺市南区 I・E 57

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