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【書評】『新宿二丁目』伏見憲明著 創造性と本能が共生する街

 初めて新宿二丁目を訪れたのは高校生の時。とある休日に、住んでいた千葉から電車を乗り継いで行ったことを覚えている。独特の雰囲気に包まれたこの街は、やがて私の故郷、ホームタウンとなった。

 高校卒業から数年後、私はゲイ雑誌の編集部でアルバイトを始めた。1990年代初頭のことで、当時は「ゲイ」という言葉はほとんど社会に浸透しておらず、「ホモ」と言うのが普通だった。そんな時代にあって、深夜のテレビ番組ではゲイのアクティビストや社会学者たちが、夜な夜な同性愛についてアカデミックに論じ合っていた。その中には著者の姿もあった。

 あの頃、私はすでに自分のセクシュアリティがゲイであることを受け入れていたけれど、かといって「ゲイとは何か」というアイデンティティーの根本にまで思いを致すことはなかった。それが著者を始めとする人々の話を聞いているうちに、「人生80年として、これからの60年をゲイという自我について何も考えずに生きていって良いのか」と考えるようになった。

 アルバイト時代、編集者になるまでは雑用がメーンで、執筆者たちと話をする機会はほとんどない。それでも、彼らがもたらす国内外のゲイに関する知識のシャワーを毎日のように浴びることができた。思えばあの頃、著者は私にとって「先生」になったのだ。

 青春時代に胸の奥まで吸い込んだ、新宿二丁目の優しさに満ちた空気はいまも変わらない。それでも、著者が第4章で「淫風の街」と評したように、かつて赤線として栄えたこの街には、いまも本能剥き出しの激しい一面が棲(す)んでいる。

 人間的な創造性と動物的な本能が共生する、世界に類を見ないゲイタウンに、著者は「街がどのように形成されてきたのか、という問いが本書を貫くテーマだ」と正面から向き合った。が、本書は単なる歴史本に留まらない。

 過去と現在を俯瞰(ふかん)する巨細な取材と従容な分析は、見事に街の未来を示唆しているからだ。新宿二丁目への深い理解と強い愛情、そして尽きることのない大きな希望が胸を衝(つ)く。そう、伏見憲明さんはいまでも私を導く「先生」なのだ。(新潮新書・820円+税)

 評・マツコ・デラックス(タレント)

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