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【新・仕事の周辺】かんのゆうこ(童話作家) 思ってもみなかった人生

かんのゆうこさん
かんのゆうこさん

 小さい頃から読書が苦手だった。学校の図書館にも、数えるほどしか行ったことがない。小学生の時に読んだ記憶があるのは、佐藤さとるの『龍宮の水がめ』だけ。世界の名だたる作品にもほとんど触れないまま、大人になってしまった。

 そんな私を見て、父はいつもため息をついた。父は本が大好きだったのだ。好奇心が旺盛で、部屋には著名な小説家の全集をはじめ、哲学、数学、物理学、経営学、さまざまな専門書がずらりと並んでいた。

 「本ならいくらでも買ってあげる。本を読むのは、いいものだよ」

 それが父の口ぐせだった。学生時代に戦争を体験した父。本が大好きだったのに本が買えない、勉強したいのに学べない、そんな学生時代を送った経験があるからこその言葉だった。

 それなのに、当の娘は、いくらでも本を読める環境があるのに読書嫌い。こどもというのは思うようには育たないものだ、とため息をつきたくなる親の気持ちも今ならよくわかる。

 大人になって、シェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』という絵本に出合った。シンプルな物語の奥にある深いメッセージが、自分の人生と重なった。絵本はこども時代にだけ読むものだと思っていたけれど、大人になってから読む絵本が、こんなにも胸に響くとは思ってもみなかった。

 それがきっかけで児童書の魅力に目覚め、童話作家を目指し始めたのが20代後半の頃。32歳で初めての絵本を出版し、インクの匂いが残る出来立ての本を実家に送った。いつもは冷静な父が、その時ばかりはずいぶんと驚いていた。童話を書いていることは伝えていたが、本当に作家になれるとは思っていなかったらしい。

 「おまえが本を出すようになるなんて、思ってもみなかったよ。まさかおまえがねぇ…」

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