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2000万部超えも 中国発「華文SF」がウケるわけ

中国で相次ぐSF書籍
中国で相次ぐSF書籍

 科学的仮想をもとに、異世界やまだ見ぬ未来を描き出す-。そんなSF小説の分野で、欧米や国内作家の作品に加えて中国発の“華文SF”の存在感が高まっている。世界的なヒットを記録した劉慈欣(リウツーシン)さんの大作『三体』の日本語版が7月に刊行され、若手作家らの短編も相次ぎ邦訳されている。隆盛の背景には何があるのか。   (海老沢類、本間英士)

 オバマ氏も絶賛

 早川書房から邦訳版が出た『三体』(立原透耶監修、大森望ほか訳)は現代中国を主な舞台にしたSF小説。三部作の第1作にあたり、「翻訳SFとして破格の数字」(同社)である11万部を突破した。2015年には世界最大のSF賞といわれる米ヒューゴー賞(長編部門)をアジアの作家として初めて受賞した作品だ。

 中国ではシリーズ累計で2100万部を超え、世界でも800万部を記録。米国のオバマ前大統領もニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「本当に面白かった。この本で描かれた内容と比べたら、議会との軋轢(あつれき)など私の日々の問題なんてささいなものだ」と絶賛した。

 人類の運命を左右する巨大プロジェクトをめぐる壮大なストーリー。科学者の相次ぐ自殺、謎めいた学術団体、VR(仮想現実)ゲーム「三体」などが絡み合う。これらのカギとなるのが、題名にもなった天体力学の難問「三体問題」だ。同社翻訳ミステリ・SF課の清水直樹さんは「荒唐無稽な要素とナノテクノロジーなど現実に即した要素を組み合わせ、エンタメに昇華させた。『人類はどこから来て、どこに行くのか』も描かれた骨太のストーリーだ」と魅力を語る。

 一方で、1960~70年代の文化大革命期の苛烈な抗争も活写。作中のVRゲームには、秦の始皇帝ら歴史上の人物が多く登場し「普段SFを読まない読者層にも響いている」(清水さん)という。

 第2巻は来年夏、第3巻は再来年の夏にそれぞれ刊行予定。清水さんは「三国志や水滸伝、魯迅作品ではない“今の中国”を知るのに『三体』は最適の作品」と太鼓判を押す。

「3層」の北京

 『三体』の成功も呼び水となり中国では近年一大SFブームが起きている。早稲田大の千野拓政教授(中国近現代文学・文化)によると、大都市の書店は軒並みSF専用棚に大きなスペースを割いているという。

 若い書き手も続々登場しており邦訳出版も着々と進む。昨年には中国出身の米作家、ケン・リュウさんが編者を務め、中国の若手作家7人のSF作品を集めた『折りたたみ北京』の邦訳(早川書房)が刊行され話題に。同書で紹介された女性作家の一人、1984年生まれの●(=赤におおざと)景芳(ハオジンファン)の『●(=赤におおざと)景芳短篇集』(及川茜訳、白水社)は今年3月の出版から3カ月で重版された。

 収録短編の一つ、2016年にヒューゴー賞を受けた「北京 折りたたみの都市」の舞台は、貧富の差によって3層構造に分割された北京が舞台。最下層が暮らす「第三空間」のごみ処理施設で働く主人公は、お金を工面するために富裕層が集う「第一空間」へ果敢に忍び込む…。奇抜な設定の中に、人口の過密や経済格差、機械化による人間の疎外といった現在進行形の問題に対する批評意識と弱者への温かな視線が息づく。担当編集者の杉本貴美代さんは「現代の中国が抱える問題を扱いつつ、ドラマチックな展開や詩情あふれる表現が生きている。それが読者の心をとらえたのでは」と話す。

期待と不安

 ●(=赤におおざと)景芳さんの作品に描かれるように、中国では経済成長の陰で社会矛盾が表面化し、先行きの不透明感も増している。「近年人気の中国SFは、以前のような社会主義謳歌(おうか)の小説からは様変わりしている」。千野教授は中国の人々の想像力の変容を見てとる。

 「自分たちの社会はどこへ行くのか? 期待と不安を胸に、中国の人々は世界の構造を考え、科学技術に思いをはせながら未来を想像するようになっている。彼らにとってSFは未来を考える手がかりを与えてくれるジャンルとして存在している」。昨今、宇宙開発など先端技術の開発でも注目される国で紡がれるSFは、日本や欧米の作家の想像力も刺激しそうだ。

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