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【ロングセラーを読む】『一九八四年』ジョージ・オーウェル著、高橋和久訳 忍び寄る全体主義に警告

『一九八四年』ジョージ・オーウェル著
『一九八四年』ジョージ・オーウェル著

 自己責任を伴う自由の重さに耐えきれなくなったとき、人は「束ねられてみたい」という誘惑に駆られる。自分の所属する共同体が弱体化したり危機にひんしたとき、人はメシアを待望する。加えてソ連の崩壊と冷戦の終結によって、共産主義や全体主義への警戒心はずいぶん薄くなってしまった。下手をすると民主主義なぞ、簡単にひっくり返る。世界の先進国はいま、濃淡の差こそあるが、間違いなくその危機にある。

 オセアニアという全体主義国家の恐怖社会を描いた英国作家、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』(1949年刊行)は、人が自由に価値を認める限り、読み継がれてゆくべき作品だろう。皮肉なことに、中国や北朝鮮は、この作品を下敷きにしているとしか思えない恐怖社会を築き上げている。オーウェルの書いたおぞましい社会は現にこの世界に存在している。北朝鮮で医療施設などの建設・改修活動に従事した東独出身の技術者、マイク・ブラツケさんに取材したおり、北朝鮮で『一九八四年』を読み、現実と類似点が多いことにゾッとしたと語った。

 ビッグ・ブラザー(スターリンがモデル)が支配する全体主義国家オセアニアは、国民の思想を徹底的に管理する社会だ。テレスクリーンなる装置による四六時中の監視、思想警察の暗躍、拷問、政府への反逆者を敵として憎む心を醸成する「二分間憎悪」なるプロパガンダ、そして決定的なのが「ニュースピーク」という新語法の導入だ。思想は言葉によって育まれてゆくが、「ニュースピーク」はそうさせないために考案された新語法なのだ。

 日本オーウェル協会会長の佐藤義夫さん(和洋女子大名誉教授)はこう解説する。「全体主義が人間同士の信頼を断ち切り、人間の尊厳をいかに傷つけるかをオーウェルは警告しています。中国、北朝鮮、ロシアといった国々にこそあてはまるようですが、欧米の先進国にもその兆候が見られます。米国でトランプ大統領が誕生したおり、敏感な人々の警戒心が呼び覚まされたようで、『一九八四年』に再び注目が集まったのは興味深い現象でした」

 全体主義体制下では間違いなく焚書(ふんしょ)の対象になる作品だ。いまのうちに読むことをお勧めしたい。(ハヤカワepi文庫 860円+税)

 桑原聡

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