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【ビブリオエッセー】青春の旅への誘い 「イタリアからの手紙」塩野七生(新潮文庫)

 『ローマ人の物語』で知られる塩野七生さんのイタリア遊学時のエッセーである。

 古代ギリシアの詩人ホメロスが「ブドウ酒色の海と歌った」地中海。「根っからに楽天的な女」「そういう自由な女だけが持つ、永遠に男の心をまどわす魅力をたたえている都」ローマ。才気あふれる筆致で描かれたイタリアの奥深い魅力に引き込まれた。

 だが、美しく麗しい町にも陰がある。美観の裏に隠された素顔も塩野さんは教えてくれる。たとえばおしゃれなカフェが立ち並ぶにぎやかなヴェネト通りの端にある「骸骨(がいこつ)寺」。聞いただけでゾクッとするが、四千人の死者の骨で墓所を飾るとはなんという異様さだろう。「“愛の宗教”であるはずのキリスト教の、もうひとつの顔を」知った。

 この本が出版された70年代の前半、私は高校の教員になって一年目で、世界史を担当していた。念願のイタリアへ旅したのは翌年の春。ローマからフィレンツェ、ヴェツィア、ミラノ…、一応の観光ルートを巡った。自由行動の日はショッピングを楽しみ、地図を片手に、明るい陽が降り注ぐ表通りや、ちょっとそれた裏通りを、気ままに歩きながら異国の町の日常に触れ、旅の喜びに浸った。

 骸骨寺を「もう少しの余分な時間があったら、この『記念すべき修道士たちの墓所』を一見することをお薦めする」と書いているが、当時はよほど豪胆でないと足は向かないだろうと思ったものだ。

 四十数年も前、青春の旅へと誘ってくれた懐かしい一冊である。

 和歌山県かつらぎ町 奥村喜代美69

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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