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【編集者のおすすめ】『熱源』川越宗一著 民族、文化を問う歴史小説

『熱源』
『熱源』

 山辺安之助とブロニスワフ・ピウスツキ。この名前を知る人は多くないのではないでしょうか。しかし本作を読み終わったあと、明治維新後の樺太で、数奇な、そして情熱にあふれた人生を駆け抜けた二人の名前は忘れられないものになっていることでしょう。

 松本清張賞を受賞した『天地に燦(さん)たり』で、歴史の流れに翻弄されつつ自らの「生」を全うした人々を描いた川越宗一さんは、この作品でも同じスタンスを取りながら、さらにスケールの大きい物語を描き切りました。

 明治維新後、政府は「日本」という旗を立て、民族を一つにしようとしました。その余波を受けたのが樺太や北海道に住むアイヌです。山辺安之助、アイヌ名ヤヨマネクフは樺太から北海道の対雁(ついしかり)へと移住を強いられ、その地で多くの親しい人を失います。

 一方、リトアニアに生まれたブロニスワフはロシアによる強烈な同化政策のもと、母語であるポーランド語を話すことを禁じられて育ちました。皇帝暗殺未遂事件に連座して樺太に流刑となった彼は、そこで少数民族の自然に寄り添った生き方に魅せられていきます。

 国籍も民族も、そして思想も異なる2人。しかし山辺は日本によって、ブロニスワフはロシアによって生き方を捻じ曲げられてきました。支配されるべき民族などない。滅びてよい文化などない。二人の声なき叫びが響きわたるとき、読者の前に見たことのない景色が広がります。容易に足を踏み入れられないところに挑んだ、まさに傑作です。(文芸春秋・1850円+税)

 文芸春秋第二文芸部・加藤彩子

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