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【ビブリオエッセー】やはり百けんはおもしろい 「贋作吾輩は猫である 内田百けん集成8」(ちくま文庫)

 16年間ともに暮らした猫が死んで3年になる。最近になってやっと藤田嗣治の猫の絵はがきを飾り、岩合光昭の写真展「こねこ」にも行けるようになったが、内田百けんの『ノラや』はまだ読めない。

 近くの図書館にちくま文庫の「内田百けん集成」がそろっていたが、9巻の背表紙に『ノラや』とあるのが見るのもつらく、百けんのコーナーを避けていた。ある日、猫のノラが外に出たまま帰らない。飼い主にとってこれほど悲しいことがあるだろうか。百けんがかわいそうでならなかったのだ。

 でも、久しぶりに百けんが読みたくなり、図書館で『贋作吾輩は猫である』を借りた。この猫は死なないので、安心して読める。

 やはり百けんはおもしろい。幾度も読んだこの本。今回は「小さなお神さん」にひかれた。大酒飲みのどうしようもない百けんに、このお神さんは、こんなに用事をさせられて、でも愚痴らずくるくる働く。集まってくる人たちに精いっぱいのふるまいをする。

 大変だな。私にはとてもまねできない。お神さんになるより猫になり、この退屈入道の膝の上で、つらつらものを思いつつ、めぐりの人たちを観察するのがいい。

 御上さんではなく、お神さんの表記にくすっと笑える。百けんはこのお神さんが好きだったんだな。小さなお神さんが、かわいいお神さんと読めてくる。

 今度は、ちくま文庫の百けんを1巻から順に読んでみようと思う。9巻の『ノラや』を抜かして。

 大阪市福島区 村上康子 65

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