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芥川賞候補、古市憲寿さんの枯れない「創作の源泉」とは

「現代の東京という都市の〝物語〟を描きたかった」と語る社会学者の古市憲寿さん
「現代の東京という都市の〝物語〟を描きたかった」と語る社会学者の古市憲寿さん

 「小説の執筆は地に足の付いた作業。テレビの仕事も嫌いじゃないですが、やはり文章を書くことが好きだと改めて気づけた、いい経験でした」。こう語るのは、2冊目の小説『百の夜は跳ねて』(新潮社)を刊行した社会学者の古市憲寿(のりとし)さん(34)だ。「空気を読まないコメンテーター」としてもおなじみの気鋭の新作は芥川賞候補にも選出。薄闇の中、最後に光が差すような青春小説に仕上がった。

 主人公は就活に失敗し、窓ガラス清掃員となった20代の青年。ある日、タワーマンションの高さ約200メートルを清掃中、窓ガラス越しに老婦人と出会う。「ねえ、記録を撮ってきてくださらないかしら」。老婦人の提案を青年は聞き入れ、不思議な交流を重ねていく。古市さんは、以前から高層ビルの清掃に興味があったという。

 「窓ガラス一枚しか隔てていない近さで、初めはすごく(清掃員が)気になるのに、だんだん気にならなくなっていく。作中では『幽霊みたい』と表現しましたが、それを物語にしたら面白いな、と」

 昔から太宰治の短編『富嶽(ふがく)百景』が好きだったという。同作の主人公の「私」は最初、富士山に良い印象を抱かなかったが、自己との対話や旅先での出会いを通じ、富士山への見方が変わっていく。「『世界は捨てたもんじゃない』ということが描かれていて、それを現代の東京でできないかと思っていました」

 小説を書き始めたのは、一昨年の祖母の死がきっかけだった。自身に残った割り切れなさを「エッセーや論文ではなく、小説なら書けると思った」という。この思いが、安楽死を扱った小説『平成くん、さようなら』(文芸春秋)につながった。

 同作は前回の芥川賞候補となったが落選。選考委員の講評やSNS上には厳しい意見が並んだが、それらをあえて「できるだけ読む」ことで咀嚼(そしゃく)。好物のチョコレートを食べるなどして心を整え、自身の文章を見つめ直した結果が『百の夜は跳ねて』に結実した。

 政財界や芸能界など交友関係は幅広く、各界の「観光客」を自称する。文学界を旅する理由は、「伝えたいことが小説でしか届かない人もいる」ためだ。

 「僕は専業作家じゃないので、自分が書きたいものを書かないと意味がない。評論より小説の方が適しているテーマなら、小説として書いていきたい」。〝観光客〟の旅路はこれからも続く。

(文化部 本間英士)

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