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避けてきたSFと真剣勝負 宮部みゆきさんが新作

インタビューに答える作家の宮部みゆきさん(酒巻俊介撮影)
インタビューに答える作家の宮部みゆきさん(酒巻俊介撮影)

 宮部みゆきさんには多様な「顔」がある。ミステリー作家で時代小説作家。平成の世に潜む闇をあぶり出した社会派作家である一方、ファンタジーや少年少女向け小説も手掛けてきた。ジャンルの枠にとらわれないベストセラー作家の74作目は、一時期は「書くことから逃げ回っていた」というSFの短編集だ。

 「『宮部みゆきってどんな作家ですか』と聞かれたとき、この本を読めば『だいたいこんな人ね』と分かっていただける作品がそろったと思う」

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 執筆のきっかけは10年前、書評家の大森望さんからSF作品集への寄稿を打診されたこと。「私にSFがちゃんと書けるかな」。これが当時の率直な思いだった。昭和11年2月の陸軍青年将校を中心とするクーデター「二・二六事件」当時にタイムトリップする『蒲生邸(がもうてい)事件』で日本SF大賞を受賞するなど高い評価を受けたのに、なぜSFを避けていたのか-。

 「あの時は、ミステリー作家がSFネタを書いたことで評価された面もあった。『書いてみたら何となくSFっぽくなった』作品ではなく、今回は『ちゃんとしたSF』を書こうと決めた」

 本書は、文芸誌に1年1作のペースで掲載したSF短編8作を収録。防犯カメラの不気味さをあぶり出した「戦闘員」、虐待された子供と、その親も救済するシステムが確立した架空の近未来が舞台の「母の法律」…。この10年間の社会問題に焦点を当てた作品が並ぶ。

 宮部流のSFもある。「わたしとワタシ」は、平凡な大人になった45歳の「わたし」の前に、女子高生の「ワタシ」が現れる作品。昔の自分に「絶対におばさんみたいにならない」と言われても、「わたし」は今の自分にささやかな誇りを持って生きる。宮部作品のもう一つの特徴である、懸命に生きる人に向ける優しいまなざしが印象的だ。

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 幼い頃から本好きで、学校の図書室や貸本屋に足繁く通った。『あしながおじさん』にアガサ・クリスティのミステリー、楳図かずおさんの怪奇漫画…。読みふけった作品が「今でも血肉になっている」。

 生粋の“ファンライター”でもある。「いい作品を読むと、『こんなのが書きたい!』と思う。そこから、自分らしさのある物語をどう作るのか考えるのが楽しい」。昭和62年に作家デビューし、カード破産を描いた『火車(かしゃ)』(平成4年)で脚光を浴びた。その後もノンフィクションの手法を用いて殺人事件を描いた『理由』(10年)などベストセラーを次々と生みだし、現代社会の闇に光を当て続けた。

 転機は、犯罪被害者と加害者双方の視点から連続誘拐殺人事件を描いた『模倣犯』(13年)。21世紀最初の年に刊行された同作は宮部さんの代表作となったが、「非常に残酷な事件を扱ったという負い目があり、しばらく犯罪ものから遠ざかった」という。以後、ファンタジーなどの新境地を開拓。以前は7割が短編だったが、長編を手掛けることが多くなった。「20世紀と21世紀では全然違う作家になった」と振り返る。

 今年でデビュー32年。本作も含め、最近は短編の執筆が再び増えた。「人間、そうは変われないもの。ぐるっと回って、また元に戻ってきた。みっちりと書き込まないといけないという“呪縛”からもようやく逃れられた」

 成長の手応えを感じているが、こうも口にする。「これからは作家としての“晩年”に入っていく。ちゃんと成長しているか(読者から)問われるのが怖くもあり、楽しみでもあり…」   (文化部 本間英士)

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みやべ・みゆき 昭和35年、東京都生まれ。法律事務所勤務などを経て、昭和62年に作家デビュー。『火車』で山本周五郎賞、『理由』で直木賞、『模倣犯』で司馬遼太郎賞、『名もなき毒』で吉川英治文学賞。直木賞の選考委員も務める。

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