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【話の肖像画】バレエダンサー・熊川哲也(47)(10) ヌレエフのすごみに学ぶ

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自身の振り付けによる全幕バレエ「カルメン」でドン・ホセを演じた=平成27年10月 (c)Shunki OGAWA
自身の振り付けによる全幕バレエ「カルメン」でドン・ホセを演じた=平成27年10月 (c)Shunki OGAWA

 〈Kバレエ カンパニー設立20周年の今年、「ベートーヴェン 第九」公演(1月31日~2月3日)で幕が開けた。最終楽章には自身も出演した〉

 リハーサルで20代のダンサーたちと踊ると、どうも居心地が悪いですね。鏡に映る自分の姿をみると、白い髪が目立つし、若かった頃とは違います。筋肉は柔らかくなって踊りやすくはなりましたが、日々、肉体的な衰えは感じています。40代になればどんなアスリートでも筋肉も落ちるだろうし、艶もなくなってくるでしょう。バレエダンサーも同じです。

 〈続く「カルメン」(3月6日~21日)でも、初日と最終日の2公演にドン・ホセ役で出演した。最終日のエンディングでは、ホセはカルメンを撃った後、自身にも銃口を向けて引き金を引いた〉

 ホセが死ぬことは、カルメン役の矢内千夏(Kバレエ カンパニーのプリンシパル)にも話していませんでした。熊川哲也が演じるホセはこれが最後、という思いがありました。舞台の上で自らの命を絶つ演出はドラマチックですし、完璧かなと思いました。しかし今後、二度と舞台に立たないと言い切れない自分がいますし、今後も線を引くことはしないと思います。

 カーテンコールの瞬間は、自分がバレエダンサーであることに幸福を最も感じる至福の瞬間です。(世界的バレエダンサーだった)ルドルフ・ヌレエフが語ったように、この幸福を一度でも味わった人間は舞台を去りがたいという気持ちがよく分かります。

 〈約二十年前の自著「メイド・イン・ロンドン」では、54歳で死ぬ直前まで舞台に執着したヌレエフについて、「ダンサーとして生き、ダンサーとして死ぬ。これほどエゴイスティックで、幸福な人生はないだろう」、そして晩年の踊りについては「…辛(つら)かった。そして、哀(かな)しかった。ヌレエフに敬意を抱いているだけに、衰えた姿を見たくなかったのだ」と書き記している〉

 当時の自分は痛々しいほどに子供でした。今はそうは思いません。ソ連から亡命したヌレエフの生きざま、貫いた信念、他をも圧倒する気迫はやはりすごいと思います。共産党一党独裁の社会主義体制下で、芸術に飢え、芸術に身を包み、そんな時代に生きたバレエダンサーの表現方法には、すごみのようなものがありました。霊的な世界に身を置いていたのではないかと感じるほどです。

 同じようにソ連から亡命したミハイル・バリシニコフも、ナタリア・マカロワも、彼らが20代で踊った「ジゼル」の映像を見ると、自分が20代のときに踊った「ジゼル」とは全然違っていて、より精神性が高く芸術的です。当時の自分はとにかく高く跳んで、高速回転をしていればいいだろう、と技巧ばかりを追い求めていた時期でしたから、その違いがこの年齢になったからこそ改めて感じます。(聞き手 水沼啓子)

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