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ホームレスの体験談から学ぶ 「道徳」必修化で注目

学生に体験談を語る美馬直史さん(中央)。「格差がなくなり、みんなが楽しめる社会になれば」と話す=大阪府豊中市(彦野公太朗撮影)
学生に体験談を語る美馬直史さん(中央)。「格差がなくなり、みんなが楽しめる社会になれば」と話す=大阪府豊中市(彦野公太朗撮影)

 ホームレスの人に雑誌の販売を任せて自立を支援する「ビッグイシュー日本」(大阪市)が販売員を学校に派遣し自らの人生を語ってもらう授業が、注目を集めている。「道徳」が必修化される中で、ふだん直接話す機会のない人との対話に大学生や子供たちは心揺さぶられ、人生観を見つめ直すことにつながっているという。(加納裕子)

 「今も冷たい目で見る人がいる。格差がなくなり、みんながにこっとして楽しめる社会になればいい」

 ビッグイシュー販売員の美馬直史さん(56)は6月中旬、大阪大学の豊中キャンパス(大阪府豊中市)で1年生45人を前にそう語りかけた。

 美馬さんは徳島県出身。大学中退後、平成元年に大阪の釣具会社に就職したが、7年の阪神大震災をきっかけに会社の業績が悪化し転職。チームリーダーとなったが部下のリストラを命じられ、自ら退職した。その後、ホームレスとなり、数年前からビッグイシュー日本が発行する雑誌を路上で販売しながら自立を目指す。

 熱心に耳を傾けていた学生からは、現在の月収や社会への不満などをたずねる声が次々と上がった。「部下をリストラするか、自分が辞めるかの判断をもう一度するなら、どうしますか」との問いに、美馬さんはこう答えた。「一緒に頑張ってきた人を傷つけることは、自分の性格上、やはりできないです」

 法学部の鶴岡巧実さん(18)は「ホームレスの人は努力不足というイメージだったけど、こんなにまじめに働く人でもホームレスになる。印象が変わりました」と話した。

 教養科目のこの授業を担当する理学部の長野八久講師は、これまでにも数回、販売員に講義を依頼してきた。その狙いを「大阪大の学生は入学した時点で成功者だと思っている人が多いが、大阪大を卒業してもホームレスになる可能性は十分ある。1年生のうちからいろんな人と接して気づいてほしい」と強調。

 「ホームレスも、ふつうのおっさんやと知ってほしい」と美馬さんは訴えた。

 ビッグイシュー日本は15年の発足当時から、販売員への講演依頼に応じてきた。「道徳」が必修化されたことで、小中高校からの依頼にも積極的に対応。昨年度は、進学校として知られる灘中学校(神戸市)や洛星高校(京都市)などを含め、50校以上で授業や講演を行った。

 なぜホームレスになったのか、今どんな思いで暮らしているのか-。販売員が語る人生は、子供たちの年齢に関係なく心に響くようで、質問が相次ぐ。ビッグイシュー日本の販売担当、吉田耕一さん(39)は、販売員の話を「無敵コンテンツ」と表現し、「今までとは違った景色がみえるきっかけになれば」と期待する。

 こうした出前授業の取り組みについて、武庫川女子大大学院の押谷由夫教授(道徳教育学)は「道徳教育とは子供たちに自分の生き方を考えさせるためのものであり、多様な人の生き方に触れることはとても重要」と指摘。「ホームレスの人と直接話したり、質問したりすることで意識が変われば、どんな人に対しても敬意を払うことにつながる。道徳の授業だけにとどめず、総合的な学習の時間も活用するなどして、より理解を深めてほしい」と話している。

■ビッグイシュー

 英ロンドン発祥の雑誌で、平成15年に大阪で日本語版の発行が始まった。販売員として登録したホームレスに、最初に10冊を無料で提供する。販売員が路上などで1冊350円で売ると、このうち180円が収入になる仕組みで、自立を支援する。現在は月2回発行。約120人が全国12都道府県で販売している。

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