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【書評】『帝国ホテル建築物語』植松三十里著 次世代に継ぐ覚悟問う

「帝国ホテル建築物語」
「帝国ホテル建築物語」

 大正時代に米国人建築家、フランク・ロイド・ライト設計による帝国ホテル2代目本館(ライト館)が実現するまでの、史実に基づく物語。関係者の板挟みにあう若き支配人、林愛作の苦悩が一つの軸になっている。

 丁稚奉公(でっちぼうこう)から始めるも、多くの恩人に恵まれ米国で古美術商として活躍していた愛作は、渋沢栄一や大倉喜八郎ら同ホテルの経営陣に見込まれ支配人に抜擢(ばってき)される。しかし、ライト館完成までの道のりは苦難の連続だ。巨匠建築家が課す妥協なきやり直しと設計変更。言語の壁もあり、ライトと現場の職人たちは苛立(いらだ)ちから対立してしまう。

 窮地に追い込まれた愛作だが、東京・日比谷に日本を代表するホテルを建てるという志に立ち返る。それは日本人の目には西洋的に映り、西洋人の目には日本的に感じられる、世界のどこにもないホテルだ。紆余曲折(うよきょくせつ)を経てライト館は完成し、開館当日に見舞われた関東大震災にも耐えたのだが-。

 目を現在の東京に転じれば、2020年五輪・パラリンピックに向けて最後のチャンスとばかりにマンション、商業施設付きオフィスビルなどが次々に建てられている。老朽化にITインフラ設備、耐震基準対応などを理由にした建て替えもラッシュだ。しかし、それらは現世代の利益のみならず次世代への贈り物となるのか。レガシーとなり得るのか。問われているのは五輪関連施設だけではない。

 愛作から支配人を受け継いだ犬丸徹三は昭和40年代に入り、安全性の問題からライト館の取り壊しを決める。「建築技術は目覚ましい進歩を遂げています。(略)いつの日か、この満身創痍(まんしんそうい)のライト館でも、保全が容易になる日も来るかもしれません。その時、犬丸徹三は非難されるでしょう。なぜ壊したのかと。でも、いいのです。(略)悪役を次の世代に押しつけるわけにはいきません」

 くしくもこのほど、米国にあるライトの建築群の世界文化遺産登録が決まったが、東京にライト館は既にない。いま東京の街に林立するマンションは住み続けられるのか。オフィスビルは使い続けられるのか。建築家だけの問題ではなく、発注者や使い手の問題でもある。本書はその覚悟を問いかける。(PHP研究所・1800円+税)

 評・山嵜一也(建築家)

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