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【書評】『下戸の夜』本の雑誌編集部下戸班編 満を持して放つ魂の叫び

『下戸の夜』
『下戸の夜』

 酒とは、かくも人に重圧感を与えるものであったのか。酒飲みには分からない「下戸の本音」がここにあった。

 本書は酒が飲めない人の「生態」を〈ゆる~くお披露目〉したものである。「下戸の矜持(きょうじ)」を示す数々のエッセーや、深夜のパフェや猫観察といった「夜のおでかけ」の提案など。下戸関連本の紹介も充実している。

 そもそも〈日本人は世界でもダントツに下戸系で、日本人の約44%はお酒に弱い体質〉だそうだ。そのせいか世間では、飲める人はなんだかスゴイ人で、逆に飲めない人はつまらないヤツと思われているフシもある。

 その積年の鬱憤を晴らすかのような、下戸の営業マンによる対談「営業飲み会の20年を振り返る」はかなり笑える。

 〈「これまで観察してきてわかったの。飲み始めて90分経(た)った瞬間にみんなおかしくなる」「僕らがケアをするしかないんだよね。どれだけ、みんなの世話を焼いているか」「それが覚えてないんだよ、酔っぱらいは。なんにも覚えてないの」〉

 それでも人は「酔うことへの憧れ」を延々と抱き続けてきたらしい。それを語るのが下戸の文人たちだ。漱石然(しか)り、広津和郎然り。大宅壮一はいう。

 〈ぼくは男として酒が飲めなかったことは、人生の中のもう一つの扉が閉ざされたままで、酒に酔うという天国気分を知らなかったことがさびしい〉

 酒は古来、人間関係の重要なコミュニケーションツールとなってきた。飲むだけで陽気になり、憂さを忘れられるというのも魅力的だ。だが価値観も娯楽も多様化した現代では、若者は酒を飲まず、アルハラが糾弾され、「飲みニケーション」も死語になった。本書は「オレの酒が飲めないのか」の重圧が薄らいだ今だからこそ、満を持して放たれた下戸の魂の叫びなのかもしれない。

 それにしても、下戸の方たちはご存じないに違いない。宿酔いの朝、なぜあんなに飲んでしまったのかとホゾをかむ悔しさを。丸一日を棒に振ったことで自分を責め、落ち込む辛(つら)さを。

 本書にある通り、〈まったく飲めないという体質の方は、ちょっとした幸運をもって生まれてきた〉のかもしれないと、少し思う。(本の雑誌社・1600円+税)

 評・瀬戸内みなみ(ノンフィクションライター)

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