PR

ライフ ライフ

【書評】『アインシュタインの旅行日記 日本・パレスチナ・スペイン』

『アインシュタインの旅行日記 日本・パレスチナ・スペイン』
『アインシュタインの旅行日記 日本・パレスチナ・スペイン』

 ■今も有効な日本人論

 本書を読みながら思い浮かべたのは、1920年代に駐日フランス大使を務めた詩人ポール・クローデルの《私が決して滅ぼされることのないようにと希(こいねが)う一つの民族がある。それは日本民族だ》との文言だった。

 同じ頃、約6週間日本に滞在した著者も京都御所を訪れ、《純粋な心は、他のどこの人々にも見られない。みんながこの国を愛して尊敬すべきだ》と日記で日本にエールを送った。

 最初は違った。船中日記には《国家イコール宗教という不気味な連中》《日本人の心理を理解するのは困難》など懐疑や皮肉が見られる。何が著者を変えたのか。カギは著者の会った当時の日本人にあるのだろう。

 著者は滞在中、息子への1922年12月17日付の手紙で《日本人のことをお父さんは、今まで知り合ったどの民族よりも気に入っています。物静かで、謙虚で、知的で、芸術的センスがあって、思いやりがあって、外見にとらわれず、責任感があるのです》と最大級の称賛を惜しまない。

 過去、日本に魅了された外国人が数々の貴重な日本(人)論を生んできた。本書も間違いなくその一冊に入る。日本以外にもパレスチナ、スペインなどの旅日記、旅先からの書簡やはがき、講演スピーチ、編者のアインシュタイン論など内容は多岐にわたるが、日本(人)への飽くなき好奇心や観察眼、温かい日本理解が何と言っても印象に残る。外国人ならではの視点や示唆も少なくない。

 《日本人は欧米文明を受け入れるのが好きです。しかし自国の心のほうが、外見は輝いて見えるそうした文明より価値があることを知るべきなのです》との指摘は重く、今も有効だ。

 と同時に100年前の日本人の美質-《日本人は簡素で上品》《農家やその他の質素な日本家屋を見たが、すべてぴかぴか…。躾(しつけ)がよくて愉快な大勢の子供たち》-は果たしていまだ健在だろうか。そう思うと、いささか心もとないものがある。

 本書は著者の人間性が垣間見えるのも楽しい。洋上でノーベル物理学賞受賞を知ると、息子たちに(賞金で)家を探しなさいとか、残金はお前たちの名義で投資するよと手紙に書く。天才も人の子よ、である。(アルバート・アインシュタイン著、ゼエブ・ローゼンクランツ編、畔上司訳/草思社・2200円+税)

 評・千野境子(客員論説委員)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ