PR

ライフ ライフ

【ロングセラーを読む】『ハーメルンの笛吹き男』阿部謹也著

 伝説の起源となった失踪事件の正体については数百年にわたって議論が続いており、舞踏病説、戦死説、少年十字軍説、そして第二次大戦後に有力視されるようになった東方植民説などの諸説が立てられ、いまだ結論は出ない。本書はそれらの学説史をたどりつつ、祭りの熱狂の中での事故説に注目するものの、事件自体の謎解きには主眼を置いていない。むしろ圧倒的なボリュームで語られるのは、伝説の背景にある当時の人々の生活、特に下層民や子供の置かれた環境がどのようなものであったかだ。当初の単なる「笛吹き男」がある時点で「ネズミ捕り男」と結びついた理由などを考察しながら、記録に残されない中世社会の暗がりに光を当てていく。

 笛吹き男、つまり遍歴芸人の社会的地位の低下などから、のちに著者はヨーロッパでの人と人の関係が11、12世紀ごろに大きく変化し、現代まで続くヨーロッパ文明が形成されたことを見いだしていった。日本人としてヨーロッパ史を研究する意味を生涯問い続けた真摯(しんし)な歴史家のエッセンスが濃密に詰まっている。(ちくま文庫 760円+税)

 磨井慎吾

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ