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【本ナビ+1】ライター・永青文庫副館長・橋本麻里 自由で新しい何か生む領域

永青文庫副館長で美術ライターの橋本麻里さん=18日午後、東京都文京区目白台
永青文庫副館長で美術ライターの橋本麻里さん=18日午後、東京都文京区目白台
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 ■『手仕事の帝国日本 民芸・手芸・農民美術の時代』池田忍著

 明治維新を迎え、制度や規範を求める先が、中国から西欧へ変わると、造形に関わる領域でも用語や制度の再定義が進み、「美術」「絵画」「彫刻」という新しい訳語や概念が作られた。美術と工芸を分け、美術が上位で工芸が下位というヒエラルキーが生じたのもこの時期だ。

 そのような状況下で、劣位に置かれた工芸の、新しい意味や価値を模索した富本憲吉、さらにその枠外にあった、女性の「手芸」に光を当てた藤井達吉、農民の「手仕事」を称揚した山本鼎らの美術運動は、権威化する美術を、日々の生活が営まれる場へ引き戻し、解放していくものと見なされていた。

 だが、本書は同じ運動のもう一つの側面を丹念に明らかにしていく。すなわち彼らが、女性や農民らのよき「理解者」「庇護(ひご)者」として、その美を、「素朴」「単純」「無垢(むく)」と規定、それが洗練され、変化することを許さぬ、抑圧者・収奪者の顔を無自覚のうちに持っていたことだ。

 現代には現代の新しい要素や課題、状況はあるものの、美術か工芸か、生活か表現か、という対立軸は相変わらず存在している。かつてと異なるのは、たとえばプロ・アマを問わない約1万5千人が、手芸からデザイン、伝統工芸までヒエラルキーなくオリジナルな創作物を出展、その数倍にのぼる入場者が鑑賞・購入するイベントが存在することだ。

 手仕事、生活工芸、現代美術といった枠組みや制度にいまだ囲い込まれていないその領域から、思想、運動、スタイル-何かはわからないけれど、自由で新しい何かが出現する、そんなことも起こり得るのかもしれない。(岩波書店・2500円+税)

 ■『オーロラの日本史 古典籍・古文書にみる記録』岩橋清美、片岡龍峰著(平凡社・1000円+税)

 鎌倉時代に藤原定家が、江戸時代に本居宣長が夜空に見た赤い光は、大規模な磁気嵐を原因とする低緯度オーロラだった。

 古典籍や古文書から天体現象に関わる記述を探し、各地の観測記録と照らし合わせることで、現代社会の電力ネットワークを破壊する可能性さえある、巨大磁気嵐を研究する。分野を横断した学際的研究の、豊かな成果がコンパクトな一冊に。

【プロフィル】橋本麻里

 はしもと・まり 神奈川県生まれ。新聞、雑誌への寄稿の他、NHKの美術番組を中心に日本美術を楽しく、わかりやすく解説。

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