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【書評】『平成プロ野球死亡遊戯』中溝康隆著 生々しい情景一気に再生

『平成プロ野球死亡遊戯』中溝康隆著
『平成プロ野球死亡遊戯』中溝康隆著

 「芋づる式」という言葉がある。私が愛するタブロイド紙や夕刊スポーツ紙でこの言葉が使われるときは大体が芸能スキャンダルの臆測記事であり、良い意味では用いられない。しかも「芋づる式逮捕」なんて実際は見たことがない。

 しかし今回、本書を読んで「芋づる式」をちゃんと使える爽快さを知った。タイトルを読めば、平成をプロ野球で語る内容だとわかるだろう。だが、その手の企画にありがちな大味さは皆無。すっかり忘れていた状況をキッチリ決めた送りバントのような正確さでよみがえらせてくれる。たとえばこれ。

 《「今年はジャイアンツが優勝できませんでしたので、後半の景気がかなり落ち込むと思われます」

 1997年(平成9年)に放送された人気テレビドラマ『ラブジェネレーション』の中で、木村拓哉と松たか子が働く広告代理店の中で交わされた会話である。一応、断っておくと、ギャグではなくガチの会議シーンでの台詞(せりふ)だ。》

 ああ、あの日の“匂い”を思い出したぞ。本書は野球をテーマにしているが、ドラマや映画、ファミコン、プロレス、お笑い、アイドルなどのエピソードが並列に登場する。「そんな日常の中にあるプロ野球が大好きだから」という著者(今年40歳)のこだわりが素晴らしい。この手法のおかげで私はゴキゲンなトンカチで頭をたたかれて忘れていた情景を一気に再生できた思い。まさに「芋づる式」なのである。懐かしさではなく生々しさが沸き立ってきた。

 さて、平成も30年あれば選手のエピソードも多数。私は、著者の丹念な掘り起こしのおかげで「大森剛」という心に深く埋まっていた物件を引きずり出せた。慶大卒の巨人のルーキーが開幕戦でサヨナラヒットになりそうだった一打をツーンと思い出した。あれが好守で捕られていなければ大森の野球人生は間違いなく別になっただろう。しかし、そんな「最もツイてなかったドラフト1位」はスカウトに転向し、坂本勇人という逸材を1位指名に推す大ホームランを放つ。人生は長い。そして平成もやっぱり長かった。

 本書を令和元年のうちに味わうことをおすすめする。(筑摩書房・1500円+税)

 評・プチ鹿島(芸人)

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