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【話の肖像画】作家・江上剛(65)(11)死を日々意識…走って救われた

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「えちご・くびき野100kmマラソン」を完走、ゴール付近で
「えちご・くびき野100kmマラソン」を完走、ゴール付近で

 〈日本振興銀行が破綻した翌年の平成23年8月、整理回収機構が旧経営陣を相手取り、損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。社外取締役3人を含めた7人に対し、請求額は50億円だった〉

 「お父ちゃん、預金がない!」。妻がこう言って転がるように家に入ってきた。預金を下ろしにいったら、全部なくなっていたというんです。びっくりして銀行に電話したら、「差し押さえになってますよ」と。社外取締役としての責任を問われたのですが、知り合いの弁護士さんに聞くと、倒産した会社の社外取締役で訴えられたのは初めてではないかと言います。社外取締役は、会議に出席して会社が提出してくる書類をチェックしたり経営のアドバイスをしたりするのが仕事です。僕たちは誠実に仕事に取り組みました。でも、示された資料に経営の真の実態が報告されていなかった。それを見抜くのも仕事といわれれば反論のしようがありませんが。

 このとき僕は57歳。前年の謝罪会見後、テレビ出演や講演などの仕事はすべてなくなっていた。幸い、原稿の仕事だけは細々とですが続けることができた。出版社に「なんでこんなやつの原稿を載せるんだ」と文句は来たようですが。預金も自宅も差し押さえられ、裁判に負けたら破産するしかないと思っていました。

 〈27年7月、東京地裁は社外取締役3人で6千万円を支払い、和解するよう勧告する〉

 1人2千万円。僕にとっては大変な金額でしたが、3人で相談して応じることにしました。1人が裁判のストレスで健康を害されたことと、早くすっきりさせて新しく出発した方がいいと考えたためです。

 〈現在、キャスターの安藤優子さんらと鬱や引きこもりで悩む人をランニングで回復させるボランティアを行っている〉

 マラソンを始めたのは56歳。そのころ、日本振興銀行の経営が急激に悪化し、「もうダメだ」と死を意識するような日々でした。そんなとき、近所のマラソンチームに誘われて走るようになりました。練習は仲間と話しながら走るのですが、そこで多くの人がそれぞれの悩みを抱えていることを知りました。自分の悩みを相対化することができ、「悩んでいるのは僕だけじゃない」と自覚したのです。それで気持ちが楽になった。ボランティアを始めたのには、こうした経験があったためです。

 28年には新潟県上越市などが主催する「えちご・くびき野100kmマラソン」を完走しました。乳がんで闘病中だったフジテレビの「めざましどようび」で共演したキャスター、小林麻央さんの健康回復を祈っての参加でした。ゴールの写真を送ると、麻央さんは「ぜったいに病気に負けません」と返事をくれました。残念ながら、この8カ月後に麻央さんは亡くなりました。

 「マラソンは人生」とよく言われます。努力していれば必ずゴールの喜びがある。人生100年のゴールに向け、これからも走り続けていければと思っています。(聞き手 平沢裕子)

 =次回は30日からチベット難民で医師の西蔵ツワンさん

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