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【書評】『社会学史』大澤真幸著 空白に挑み、狭き門開く

 仕事とは関係ない場で「ご専門は」と聞かれ「社会学です」と答えると「幅広い分野の研究をなさってるんですね」などと微妙な反応が返ってくることが多い。生物学とか経済学だとある程度の想像はつくが、社会学だと「社会? それって結局、何?」とよく分からない。

 「例えば、テレビ・新聞でとりあげられているジェンダーとか格差の話で、その専門家として社会学者がコメントをしていたりすることって結構あるんですよ」と説明すると、ああそれなら知ってると、多少わかってもらえることもある。でも結局、腑に落ちていなさそうだ。

 社会学とは何か。それを根本的に理解するには、その歴史を知る必要があるが、そのための本が見当たらない。単に重要な人名や概念を細切れに羅列することで「社会学史」とする本はある。ただ、その人名・概念がいかなる背景からなぜ出てきて、それが次の議論にどう引き継がれたのかという構造化された筋書きをもって編まれたものがない。本書はその空白に挑む。

 社会学はよく分からないが、社会学的な思考をできるようになりたいという声を、稀(まれ)にではあるが聞くことがある。社会学者が何かを批評する言葉にハッとさせられた経験があったりしたのだろう。

 本書を読めばその社会学的な思考の核心に接触できる。それは、ここに描かれる歴史が、その思考の変遷の歴史そのものである故だ。

 社会学は、当然のことと思って皆が受け流していることを、あえて起こりそうもないことが奇跡のように起こっていると見つめなおす学問だ。奇跡が起きるのは神が存在する故だと言い切れた時代が終わると、社会学的な思考は急速に発達した。

 ホッブズやロック、マルクスやフロイトといった、既存の社会学史ではともすれば脇役扱いされて終わっていた理論家たちを主役級に押し出すように丁寧に触れることで、歴史を鮮やかに一筆書きする。フーコーとルーマンという現代社会学の到達点の描写・解説も明晰(めいせき)だ。

 断片的に理解することしか許されなかった社会学の狭き門を多くの人に開く決定版的入門書の誕生だ。(講談社現代新書・1400円+税)

 評・開沼博(立命館大准教授)

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