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焼失、敵国人財産、発見 流転の運命たどった松方コレクション 

ジョン・エヴァリット・ミレイ「あひるの子」1889年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
ジョン・エヴァリット・ミレイ「あひるの子」1889年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)

 東京・上野公園の国立西洋美術館は1959(昭和34)年、実業家の松方幸次郎(1866~1950年)が大正から昭和初期にかけて主に欧州で収集した西洋美術-いわゆる「松方コレクション」の375点を基に開館した。ただし、それらはもともと1万点を超えたという彼の収集作品の一部だった。時代の荒波にもまれ、流転の運命をたどった松方コレクションの全貌は-。最新の研究成果をふまえた展覧会が、開館60周年を機に同館で開かれている。 (文化部 黒沢綾子)

西洋美術館を日本に

 神戸の川崎造船所(現・川崎重工業)を率いた松方が、美術品を集め始めたのは1916年とされる。第一次世界大戦下の船舶需要拡大を背景に、自ら売り込みのためロンドンに長期滞在する中で、英国人画家のフランク・ブラングィンと友情を育み、美術収集に傾倒したらしい。

 今では松方コレクションというとモネやルノワール、ゴッホらの絵画、ロダンの彫刻など近代フランス美術のイメージが強いが、収集範囲はかなり幅広い。中世の板絵もあれば、英国のロセッティやミレイらラファエル前派、ノルウェーの画家ムンクの作品も。美術だけでなくタペストリーなどの工芸品にも手を広げ、海外流出した日本の浮世絵まで買い戻している。

 〈ひとつわしがヨーロッパの油画の本物を集めて、日本に送って見せてやろうと思っている〉

 松方の画廊めぐりに同行した美術史家の矢代幸雄は、自著「藝術のパトロン」(中公文庫)の中で松方の言葉をこう書き残している。彼を駆り立てたのは、日本の芸術家や国民に本物を見せるための「美術館構想」で、収集の幅を広げたのはそのためだろう。盟友ブラングィンが松方のために描いた美術館の構想図も展示されている。

 わずか10年ほどの間に芸術家から直接購入、あるいはパリやロンドンの有名ギャラリーを介して松方が集めた作品は1万点以上。ところが27年、金融恐慌のあおりで川崎造船所は経営破綻した。松方の美術館構想も頓挫し、コレクションは流転の運命をたどった。

時を経て「再会」

 既に日本に運ばれていた作品群は、後に東京国立博物館に継承される約8千点の浮世絵コレクションを除き、売り立てにより国内外の企業や個人へと散逸した。またロンドンで管理していた英国人画家の作品など約900点は、39年の倉庫火災で焼失。パリのロダン美術館内で保管されていた残りの美術品(400点余り)の大半は、第二次大戦期にドイツ軍の侵攻を避けて農村に運ばれたものの、結局、敵国人財産としてフランス政府に接収された。

 戦後、仏政府は寄贈という形で375点を日本に返還し、それを基に西洋美術館が設立されたことで、既に他界していたものの、松方の夢は一部、実現したといえる。ただ、フランス側が重要作として自国に留め置いたものも。

 その一つでパリ・オルセー美術館の至宝、ゴッホの「アルルの寝室」をはじめ、国内外に散逸した松方旧蔵の名品が“再会”しているのが本展の見どころの一つだろう。その中にはミレイの「あひるの子」のように、時を経て西洋美術館に寄贈されたものや、寄託されて一足先に“合流”していた作品もある。

 3年前、焼失したロンドン保管分のリストが見つかり、“幻”とも呼ばれた松方コレクションの全貌がおおよそ把握可能になった。しかしまだ、所在不明の作品も残っているという。手紙など資料類から、日本で本物の西洋美術を見せたいと願った松方と、作品の収集・管理で支援し続けた友人や部下らの存在が浮かび上がる。100年の時を経て集結したコレクションは、こうした人々の熱意と友情の証しでもある。

蘇る「睡蓮」

 本展のハイライトは、戦後長らく行方が分からず、2016年にパリのルーブル美術館で見つかったモネの「睡蓮、柳の反映」(1916年)だ。21年に松方がモネのアトリエを訪ねて購入した縦約2メートル、横約4メートルの大作。しかし上半分が欠損しており、同館は残存部分を昨年から修復、ようやく日本で公開となった。

 睡蓮の池に柳の木が映り込むさまが、荒々しい筆致で描かれている。「第二次大戦中に農家に疎開させていた頃、水や湿気で損傷したのでは」と同館研究員の邊牟木(へむき)尚美さんは推測する。仏政府が接収後、所在不明になっていたが、約3年前にルーブルの収蔵庫で発見され、松方家を通じ西洋美術館に寄贈された。

 表面に堆積した汚れやカビを取り除き、剥がれ落ちそうな絵の具を接着剤で補修。「劣化が著しく、キャンバスの布地も弱くなっており作業は難しかった」という。しかし保存修復の手によりモネの筆致や色味が鮮やかによみがえった。

 パリで近年発見された破損前の同作品を撮影したガラス乾板などを参考に、「推定復元」したデジタル画像も合わせて展示されている。

 「松方コレクション展」は9月23日まで。問い合わせはハローダイヤル03・5777・8600。

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