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【ビブリオエッセー】忘れられない先生の笑顔 「人は何で生きるか(トルストイの散歩道)」レフ・トルストイ 北御門二郎訳(あすなろ書房)

 新聞の本の紹介欄に思わず目が留まった。『人は何で生きるか』。ああ、そうだったのか。この本が有名な児童書であることを知ったのだ。喜びが沸き上がってきて、私の中に長い間しまい込んでいた小さな塊(かたまり)が溶けていった。

 69年前、私が小学6年生のときのことである。若い担任の先生は私たちに読書の面白さを常に教えてくださっていた。ある日、先生は、「この中にトルストイを読んだ者はいるか」と問いかけ、私はいきおいよく手を挙げた。が、周りを見れば手を挙げていたのは私だけ。慌てて手を下ろした。ところが先生は本の題名も聞かず、ただ満足げに笑顔を返してくださった。

 そのとき読んだ本が『人は何で生きるか』だった。神の意に背き人間界に落とされた天使ミハイルは貧しい靴職人に弟子入りし、与えられた問いの答えを探す。そこで受けた愛に生き方の真実を知る。数年後、ミハイルは神に許され、再び天へ。特に心に響いたのは、たとえ親がなくとも子は人の愛によって育つ、という箇所だった。

 思えば昔、慌てて手を下ろしたのは、図書室に並ぶ分厚い本を敬遠し、読みやすそうな薄い本を選んだことを恥ずかしく思ったからだろう。その後、分厚い「戦争と平和」なども読んだがこの薄い一冊が忘れられない。あの時の先生の笑顔は私を認めてくださったように思え、先生がますます好きになった。

 今回、再び読み直した。深い真理が分かりやすく説かれている。改めて、大切な一冊として本棚に収めた。

大阪府枚方市 田中八重野 80

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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