PR

ライフ ライフ

「虚構」を生きる力に 倉数茂さんの長編「名もなき王国」

完成に5年を費やした力作。「小説家として忘れられているかも、という不安もあった」と話す
完成に5年を費やした力作。「小説家として忘れられているかも、という不安もあった」と話す

 日本SF大賞と、純文学に贈られる三島由紀夫賞。倉数(くらかず)茂さん(50)の長編『名もなき王国』(ポプラ社)は受賞こそ逃したものの、ジャンルをまたいで著名な文学賞の候補となり注目された。「生きていくためには、フィクション(虚構)が必要」と語る作家に今の創作観を聞いた。

 〈これは物語という病に憑(つ)かれた人間たちの物語である〉。『名もなき王国』は中年小説家「私」のそんな語りから始まる。ある宴席で、「私」は敬愛していた幻想作家・沢渡晶(あきら)を伯母に持つ澤田瞬という若い作家と意気投合する。各章に晶や瞬らの幻想味のある小説が並べられ、それらを孤独と悲哀がにじむ「私」の自伝的な文章が挟む。そんな“入れ子構造”の物語のラストには、全体を揺さぶる仕掛けがあり、痛切な余韻を残す。

 中盤に置かれた短い「小説内小説」が出発点だったという。「そこから“増築”を重ねるようにして外へ物語を広げていった。『何を語るか』だけじゃなく『いかに語るか』への関心が強くある。一つの章が別の章を常に揺れ動かす感じにしたかったので改稿も随分しましたね」

 デビュー作『黒揚羽の夏』(平成23年)は、田舎町での殺人を描く少年少女物。ホルヘ・ルイス・ボルヘスらの南米文学や江戸川乱歩らに親しんだ書き手らしく、その著作は幻想性に富む。今作では、私小説的な自分語りやハードボイルドの叙情も取り込みつつ、読者を精緻な虚構の世界に引き込んでいく。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ