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田辺聖子さん 大阪弁に乗せた優しさ、人間への深い洞察

インタビューに答える作家の田辺聖子さん=平成20年4月14日、兵庫県伊丹市
インタビューに答える作家の田辺聖子さん=平成20年4月14日、兵庫県伊丹市

 市松人形にアンティークドール、スヌーピーのぬいぐるみ…。8年前、兵庫県伊丹市にある白い洋館の田辺聖子さん宅を訪ねると、客間の棚にあふれんばかりに飾られた人形に目を奪われた。

 「かわいらしいでしょう。全部、私の大好きな子たちなのよ」。夢見るような笑顔で、目を輝かせながら説明してくれた。乙女チックで玩具箱のような夢の空間から、男女の機微を描いた恋愛小説から古典の翻訳、エッセーなど数々の名作が生まれたのだと思うと感慨深かった。

 昭和39年、切ない恋愛を描いた「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)」で第50回芥川賞を受賞。「本当はね。純文学の芥川賞より、直木賞をもらいたかったのよ。砕けた普通の女の子や男の子が出てくる大衆小説を目指していたから」と当時を振り返った。

 次第に本が売れるようになると、周囲から「東京に行くんやろ?」とよく聞かれるようになったという。「東京なんか絶対行かへんわ。新幹線も走ってるし、編集者が原稿取りになんぼでも来てくれてるわ」

 生まれ育った大阪で、なによりも大阪弁にこだわった。当時、文壇で大阪弁は市民権がなく、特に恋愛小説は難しいといわれていた。「舞台が大阪で、会話だけ標準語なんて変でしょ。大阪弁こそ細かな心の襞(ひだ)が表現できる」と信じ、創意工夫を凝らした。耳で聞いたままの大阪弁ではなく、カタカナを使ったり、文字を小さくしたり、順番を入れ替えるなどテクニックを駆使し、美しい恋の話を編み出した。「大阪弁でラブロマンスを、“ロミオとジュリエット”をやったろと。打って出たの」

 果敢に挑戦した大阪弁では、独身女性を描いた「言い寄る」「私的生活」「苺(いちご)をつぶしながら」の乃里子3部作、中年ものの「すべってころんで」などの作品に昇華し、軽妙洒脱(しゃだつ)さと深い人情味を加えている。

 田辺文学のジャンルは幅広い。恋愛小説に小気味よいエッセー、源氏物語などの古典翻訳、評伝、短編…。そこには、自在に駆使した大阪弁に乗せたユーモアと優しさ、人間への深い洞察がにじむ。何度読み返しても、毎回発見があり、心が温まる。あの人懐っこい笑顔にもう会えないが、珠玉の作品群は、私たちへの最高の贈り物だろう。(横山由紀子)

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