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「拡散力」宿すウイルスの生命 大山エンリコイサム個展

大山エンリコイサム「FFIGURATI #184」 2019 Artwork(c)Enrico Isamu Oyama Photo(c)Suguru Ikeda
大山エンリコイサム「FFIGURATI #184」 2019 Artwork(c)Enrico Isamu Oyama Photo(c)Suguru Ikeda
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 自然豊かな山梨県北杜(ほくと)市小淵沢。1980年代のアメリカを代表する芸術家、キース・ヘリング(1958~90年)の作品を所蔵・展示している「中村キース・ヘリング美術館」で、近年、活躍がめざましい気鋭のアーティスト、大山エンリコイサム(35)の作品を紹介する「VIRAL(ヴァイラル)」展が開かれている。知的で洗練された雰囲気の中にも内に秘めた力が高原の地からほとばしる。 (文化部 渋沢和彦)

 クイックターン

 会場に「FFIGURATI#184」という新作が飾られている。キャンバス上に現れているのは2層のモノクロームの像。奔放で躍動感のある墨の曲線、墨のしたたる跡やスプレーでの着色などが混在した有機的な造形が広がる。その上に重ねられているのは、直線を基調としたシャープで明快な像。刀のようにも、機械の部材のようにも見えて浮き上がってみえてくる。これは大山自身が「クイックターン・ストラクチャー」と名付けた立体的に見える抽象的モチーフだ。

 クイックターンとは水泳で使われる言葉だが、「早い方向転換」などの意味。線や形が鋭利に折れ曲がり、素早さを感じさせる。「ストラクチャー」は構造の意味。立体性を持った造形の絵柄こそが、大山の作品の個性でありアイデンティティー。つまり一見しただけで彼の作品とわかるのだ。

「色に関心なし」

 この図柄は、もともとは紙に描いた小さなドローイングに端を発する。それをパソコンにスキャンしてプロジェクターで拡大してキャンバスなどの画面に写し、トレースして描く。いかにも現代的な手法だ。

 この作品は2017年、ニューヨークのギャラリーで行ったライブペインティングに加筆して仕上げた。

 大山の作品は建物の壁面にスプレーなどで落書きのように描いたグラフティを思わせるが、異なるのは文字が入っていないこと。純粋に形だけの世界なのだ。色彩にあふれた社会にあって新鮮に思える。

 「9割は白黒の作品。色には関心がない。僕の作品は形の表現だと思っている。しかし、その形に具体的な意味があるわけではない」。見る人それぞれが絵の前で想像を働かせればいい、というのだ。

 大山は1983年、イタリア人の父と日本人の母のもとに東京で生まれた。東京芸術大学大学院修了。グラフティに刺激され、2012年に渡米した。ニューヨークを拠点に世界各地で個展を行っている。

 「ストリート・アートの歴史に興味があり、研究をしている。その発祥の地はニューヨークなので、いまもパイオニアの人たちが生きていて会いにいけばインタビューできるし、私生活でも交流が持てたりする。また作家としてもニューヨークを拠点にすることでいろいろな可能性が開ける」

ウイルスの生命力

 展覧会のタイトルになっているヴァイラルとは、「ウイルス性の」という意味。ウイルスと聞くと、あまり良いイメージはもたれていない。「ウイルスは人を病気にしたり、パソコンでいえばコンピューター・ウイルスによって害を加えるというネガティブな印象が強かった」と大山。その一方で「いまはヴァイラルはポジティブなニュアンスに変化している。拡散力や繁殖して力が生成されるというニュアンスにもなっている。ウイルスの繁殖力も人間の生命力も根っこは同じだと思う。生物の生きる力という意味でも」と話す。

 HIVウイルスに感染したキース・ヘリングに言及しながら、大山はこう口にした。「ウイルスの力も、自分の生命力に統合して作品に創り上げて世の中にどんどん拡散していくという批評性が、(キース・ヘリングの)活動にあったのではないか」

 ストリート・アートの先駆者ともされるキースへのオマージュ(敬意)がタイトルに込められている。

 スピード感のある曲線や直線が画面に展開された大山の作品には、あらゆる情報が瞬時に世界を駆けめぐる現代社会の姿を連想せずにはいられない。

 長さ14メートルの巨大壁画など15点を展示。11月17日まで、会期中無休。一般1200円。問い合わせは同美術館0551・36・8712。

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