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【書評】『「わたし」と平成 激動の時代の片隅で』Yahoo!ニュース特集編集部/高田昌幸編 

 ■記憶の断片つなぎ直す

 振り返ると、「平成」の30年と数カ月は、とても長かった。本書では、平成を生きた市井の人々30人の「個人史」が語られる。国内最高齢の助産師、書店主、障害を持つ会社員、教育コーディネーター…。さまざまな立場の老若男女。印象的なのは、誰もが自分のこれまでに深く納得し、これから先のこともしっかりと、あるいは穏やかに見つめていることだ。

 それを聞き取って発信したのは、インターネット上の「ヤフーニュース特集」編集部だ。記事をまとめ、ミュージシャンら3人へのインタビューも加えて書籍にした。

 ネットやSNSでは時間軸に沿って膨大な情報が次々に流され、過ぎていく。そんな中で編集部には、〈ニュースが「断片化」していないか。社会の複雑な課題が短絡的にとらえられていないか〉という問題意識があったという。これは断片化した平成の記憶をつなぎ直すための試みだ。

 バブル崩壊、オウム真理教事件、インターネット普及、東日本大震災、海外では米中枢同時テロ、リーマンショック…。昭和の記憶と戦争は遠くなったが、いくつもの大災害とテロでたくさんの人命が失われもした。

 その情報はインターネットで瞬時に世界に送られる。あらゆるものがデジタルに置き換えられ、便利になっていった。だが、「断片化」とはこのことだ。

 だからこそ一方で、人はひととのつながりをまた手探りで求め始めたのだろう。ラジオドラマの脚本家は、3・11のあと「絆」を描くドラマが増えたと話す。コーヒーを一杯ずつサイホンで淹(い)れる老舗喫茶店の店長は、最近若い客が増えてきたと感じている。

 時間を元号で区切り、立ち止まって振り返ることができるのはとても幸せなことかもしれない。そしてこれから先も一人一人がそれぞれの歩を進め、歴史をつくっていく。

 新橋駅前で47年前から営業している靴磨きの女性は、街を行き交うひとを見つめてきた。振り返ってこう語る。

 〈平成は寂しい時代? 私のところはあったかい。あったかいよ、人間って〉(Yahoo!ニュース特集編集部/高田昌幸編 フィルムアート社・1600円+税)

 評・瀬戸内みなみ(ノンフィクションライター)

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