PR

ライフ ライフ

【文芸時評】5月号 早稲田大学教授・石原千秋 「社会貢献」の陥穽

 何年か前のことである。テレビで科学番組を見ていたら、地震学者が「いま科学にとって地震予知は最大のフロンティアです」と胸を張っていた。断っておくが、これは科学予算の文脈だった。正直な人だ。予算がその研究の価値を決める尺度なのかとか、だから科学者にとっては予算獲得が一番誇れるものなのかとか、科学者はフロンティアという言葉を予算獲得の意味で使うのかなど、いくつかの感想を持った。

 保坂和志と郡司ペギオ幸夫の対談「芸術を憧れる哲学」(群像)が面白い。郡司ペギオ幸夫は『天然知能』(講談社選書メチエ)で、何事も数値化して世界に働きかけるAIに対して、「徹底した受動性の肯定的転回」を主張しようと考えたと言う。郡司ペギオ幸夫の話はほとんど現代思想の良質の解説を読んでいるような趣があるが、なかに科学の社会貢献の話題が出る。物理学の社会貢献をずっと考えてきたという学生に、こう語ったのだと言う。「物理がいいといっても、カップに水を入れると、水はカップの形になりますね。そうすると、水はカップの形をしたものだと。自分の観測装置だとか認識様式に応じて物事を決めて、あとはできるだけ徹底してそれだけを見るという形にすれば、水はカップの形をしているのが正しいということになりますね。それは極端な言い方に聞こえるけれども、結局、科学の正しさというのはそういうもので、それを全面的に展開しているだけなんです。外部に対する違和感だとかいうものを考えることは全く関係がない話だと、僕は言ったんですね」と。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ