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【夜間中学はいま】(6)「自分を変えたい」と学び直し

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入学式の後、笑顔を見せる倉持晴一さん=千葉県松戸市(鴨川一也撮影)
入学式の後、笑顔を見せる倉持晴一さん=千葉県松戸市(鴨川一也撮影)

 「能力がないから高校にいけない」-。千葉県松戸市の倉持晴一さん(47)は、中学校の面談で担任教師から言われた言葉を忘れることができない。いじめにもあい、学校にはほとんど通わず卒業した。その後、満ち足りない思いを抱きながら人生を送ってきたが、「働くためにも学び直したい」と、新しくできた公立の夜間中学に1期生として入学することを決めた。

やり残した感覚

 倉持さんは今月16日、千葉県松戸市に開校した夜間中学、市立第一中学校みらい分校の入学式に緊張した面持ちで臨んでいた。約30年ぶりの学校生活に向けて、通学用のリュックサックを新調。「みんなと勉強できるのが楽しみ。たくさん友達を作りたい」と声を弾ませた。

 かつての中学校生活に良いイメージはない。「同級生には靴を隠され、ノートを破られるなどのいじめを受けた。担任の教師に相談しても取り合ってもらえず、親にも事情を打ち明けられなかった」

 結局、学校にはほとんど通わなかった。公共職業安定所で仕事を探し、パン工場で働いたこともあったが、体調を崩して数年で辞めた。知的障害などがあることが分かり、今はグループホーム暮らし。障害者作業所に週五日通って、ミシンで巾着袋を縫う仕事などをしている。

 同世代は働き盛りで、職場で責任のある役職についたり、仕事に打ち込んだりしている。「何かやり残しているのではないか」という感覚がぬぐえなかった。

 不安を抱えながらも、学び直しを決めたのは「先に進まなければ夢も持てない。自分を変えなければ」という思いからだ。

35年間見守る

 これまで、倉持さんの学びを後押ししてきたのは、地元の自主夜間中学。ボランティアたちが、算数を教えてくれた。かつての中学校と異なり「頼りになる先生がいて、優しく教えてくれた」。不得手だった足し算や引き算からやり直し、かけ算や割り算もおさらい。自分がレベルアップしているという手応えを感じることができた。

 今回できたみらい分校は公立の学校。昼の中学校と同じように教員免許を持った教員が授業を行う。教科書も無料で配られる。こうした公立の夜間中学の開設は自主夜間中学を運営してきたボランティアたちにとっても長年の悲願だった。

 倉持さんが通った自主夜間中学を運営するNPO法人「松戸市に夜間中学校をつくる市民の会」の理事長、榎本博次さん(69)はこの日の入学式に来賓として出席。会は35年以上にわたり活動を続けており、「ようやく実現した」と感慨深い思いで、倉持さんらを見守った。

 榎本さんによると、倉持さんは、人との関わりを苦手にしているように見えたが、自主夜間中学での学びを通じ、「人を信じられるようになってきた」という。

 一方、「アットホームな雰囲気が好き」「週五日の通学が難しい」といった理由で、公立夜間中学には通わず、あえて自主夜間中学に残るという選択をした人もいる。榎本さんたちは彼らのために今後も活動を続けていくという。

 会が発足したのは昭和58年。当時は松戸から都内の夜間中学に通う人が多く「公立の夜間中学ができれば、越境通学しなくてもすむ」と教育関係者らが集まったのがきっかけだった。

 自主夜間中学の生徒には、それぞれ事情があり、学び続けることができる人も、そうでない人もいた。だから、合言葉は「来る者拒まず、去る者追わず」。

 不登校の生徒や障害のある生徒も積極的に受け入れた。自主運営の原則を貫き、運営費用の不足分は、イベントなどで生徒たちとともにたこ焼きを売った収入を充ててきた。

「働く」という目標  

 松戸市教育委員会は、開校した、みらい分校を「生涯学習と学校教育の新たな結束点」と位置づけている。1期生は日系ブラジル人や中国人を含む10~70代の22人。学力や日本語の理解度に応じて各学年に振り分けた。

 倉持さんは2年生からのスタート。自主夜間中学にはなかった美術や体育の授業を心待ちにしているという。「働く」という目標に向かって、公立の夜間中学で新たな一歩を踏み出した。

 「公立の夜間中学にいくことができたのは、自主夜間中学があったから。相談に乗ってくれる人や信頼できる人がいた。自主夜間中学に出合えてよかった」と笑顔をみせた。

 自治体が設置する公立の夜間中学に対して、自主夜間中学の運営は、主にボランティアが行っている。全国には、夜間中学がない地域も多く、自主夜間中学や識字教室などが学びを支える役割を担っている。文部科学省の調査によると全国に少なくとも25(平成29年7月現在)の自主夜間中学がある。

 夜間中学は月曜日から金曜日までの週五日授業があり、教員免許を持つ教員が昼の中学校と同じ教科を教える。修了すると中学校の卒業資格が得られるため、本人の努力次第で高校や専門学校への進学も可能だ。

 これに対し自主夜間中学の開催は、週に数回や月数回にとどまるケースが多く、中学校の卒業資格は得られない。教員免許を持つ元教員もいるが、教員免許を持たない会社員や主婦、学生らが教えることもある。学べるのは国語や数学(算数)といった主要な教科に限られることが多い。

◇    ◇

 「夜間中学」に関する体験談やご意見、ご感想を募集します。

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