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【書評】『崩壊の森』本城雅人著

『崩壊の森』本城雅人著
『崩壊の森』本城雅人著

 ■ソ連崩壊 炸裂した記者魂

 いわゆる「記者魂」を扱った小説は少なくない。本作はそれを20世紀の超大国ソ連を舞台に描いてみせた。ソ連崩壊という世紀最大級の事件を、現地にいた日本人特ダネ記者の視線で追体験し、迫力に満ちた異国の人間ドラマに浸ることができる。

 「特ダネは禁止」「行間を読んで記事を書け」。主人公の東洋新聞記者、土井垣侑(たすく)がモスクワに赴任したとき、先輩記者からはこう指導された。時は1987年春。ゴルバチョフ書記長が登場してペレストロイカ(再建)という改革路線が打ち出されていたが、まだ大きな変化を感じられなかった。

 共産党の一党独裁が続き、記者が目立つ行動を取れば、秘密警察の厳しい監視や嫌がらせを受けた時代である。党機関紙などを読み込み、行間まで探って解釈することが西側記者の仕事だった。

 そんな慣例に風穴を開けようと、現場に出て奮闘したのが土井垣である。日本でしたような「夜討ち朝駆け」はできないが、独自のやり方でロシア人の「ウオツカ友達」をつくっていく。同時に、ペレストロイカの波が広がり、ソ連は激動の時代に入っていった。

 90年2月、記者は「ソ連共産党、独裁放棄へ」の世界的スクープを放った。情報の確認に奔走し、記事を出すまでは、手に汗を握る展開として描かれている。本作は実在した記者への綿密な取材に基づいており、ソ連崩壊に至るまでの細部は時代の記録としても貴重である。

 情報を取るために「ここまでやるのか」という事例が本作には多数出てくる。だが、土井垣の「記者魂」はより深い部分に根ざしている。別世界である共産主義国にあって、政治家や国民にじかに接し、理解したいとの真摯(しんし)な思いが仕事の底流にあった。

 当時とは比較にならない速度で情報が世界を駆け巡る時代にあって、国際報道に携わる者が忘れてならない原点を本作品は教えてくれた。土井垣を取り巻く同業者や女性たちの人間模様、そして終盤に明かされるロシアという国の「闇」も、この作品を重層的にしている。(文芸春秋・1750円+税)

 評・遠藤良介(外信部編集委員兼論説委員)

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