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【書評】『父と私の桜尾通り商店街』今村夏子著

『父と私の桜尾通り商店街』今村夏子著
『父と私の桜尾通り商店街』今村夏子著

 ■奇妙でせつない読後感

 古い商店街が描かれたどこかノスタルジックな表紙と『父と私の桜尾通り商店街』というタイトルから、家族のほのぼのした話を思いうかべて読むと、読者はあてが外れるだろう。文章はユーモラスだが、奇妙な痛々しさで心をざわつかせる全6編の作品集だからだ。

 表題作は、商店街に長く続いたパン屋が舞台だ。父は高齢のため店を閉めるといい、娘の「私」はそれを手伝っている。しかし、訪れた女性の客に「おいしくいただきました」といわれて、気持ちが極端に変化する。

 その人に気に入られるパンを作り、また一緒に食べたいと待ちこがれるようになるのだ。その熱意のせいか、パン屋はしだいに繁盛していく。こうなると、「私」がやる気を出してパン屋を継いでいくのかと予想したくなるが、そんな甘っちょろい結末は待っていない。読者の裏の裏をかくラストが待っている。

 他の収録作も出だしは日常のよくある描写から始まっているが、徐々に世間の枠からズレて読者を翻弄する。「白いセーター」では、“わたし”の正義感が空回りするし、「ルルちゃん」と「ひょうたんの精」では思い込みの激しさが不気味だ。また、「せとのママの誕生日」では、ママは本当に生きているのか、「モグラハウスの扉」では、みっこ先生の見たマンホールの中はどうなっていたのかと気になってしかたない。あえて省かれていることで想像力がかきたてられる。

 収録6編は全く別の作品でありながら、読んだあとに残る奇妙でせつない感触は同じだ。いずれも主人公たちは不器用ではあるのだが、だれかを攻撃したり傷つけたりはしない。ただひたむきに、自分の信じるものを守ろうとしている。

 著者の今村夏子は、「あたらしい娘」で太宰治賞を受賞してデビュー。『こちらあみ子』で三島由紀夫賞、『星の子』で野間文芸新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなるなど、注目の人気作家。

 この作者でしか味わえない独特の手ざわりをぜひ感じてほしい。(KADOKAWA・1400円+税)

 評・赤羽じゅんこ(童話作家)

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