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【書評】『吃音(きつおん) 伝えられないもどかしさ』近藤雄生著

『吃音(きつおん) 伝えられないもどかしさ』近藤雄生著
『吃音(きつおん) 伝えられないもどかしさ』近藤雄生著

 ■効率が重視される現代で

 どんな集団にも約1%の割合で吃音のある人がいるという。しかし、いまだメカニズムはわからず、日本ではその専門医すら少ない。理由がわからないままに、彼らは突然言葉がでなくなる可能性に恐怖し、人とのコミュニケーションを避け、社会から遠ざかっていく。

 私は片頭痛持ちで小学生の頃から定期的にくる痛みに悩まされているが、薬による対症療法はあっても改善されるということはない。季節や気圧に関係なく痛みは突然表れ、かと思えばパッタリ起きないこともある。原因もわからず治療法もない。吃音も同じだという。そうだ、人間の身体はまだわからないことだらけだったんだ、ということを本書はあらためて思い出させてくれる。

 昭和51(1976)年生まれの著者自身、高校時代から吃音に悩む当事者であったという。ところが海外で数年の旅暮らしを続けるうち、中国のカフェで珈琲(コーヒー)一杯を注文したことをきっかけに突然症状が軽減され、しまいには治ってしまったのだという。異国の地で外国人になり、さまざまな規範から解放されるというこのプロセスはわかる気がする。

 しかし吃音の原因は、そんな単純なものではないらしい。著者のケースは、極めてまれなことらしく、精神面だけに起因するわけではないため、変化が起きた原因ははっきりとはわからないという。本書では、吃音が大幅に軽減されたケースも多く紹介している。

 一方、症状が重くなるケースでは、ほぼ例外なく他者からの重圧が背景にあるようだ。親や職場の無理解は「スムーズに言葉を発せない“だけ”」ではなく、さまざまな生きづらさに繋(つな)がっていく。それほどに、集団適応力に絶対的な価値が置かれている社会だということでもある。

 しかし著者は、悲観しているばかりではない。スピードや効率ばかりが重視される現代では、待ってもらうことを必要とする存在が貴重であると言う。「吃音のある人だからこそいまの時代に果たせる役割があるのかもしれない」という言葉に胸を打たれる。(新潮社・1500円+税)

 評・インベカヲリ★(写真家)

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