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【ビブリオエッセー】それは果たして最善か 「舞姫」森鴎外著(新潮文庫)

 孫娘に「今、何読んでるの?」と聞くと、「森鴎外」と答えてみせてくれた。その本をパラパラと繰って、知っているけれど、実は読んでいないと気付いた。私の文庫本はもう茶色で、文字も小さい。

 思い切って、新しい文庫本を買ってきた。

 十九歳で法学学位を取得して官職につき、ドイツに留学した豊太郎は友人たちに流されず、ひたすらに、母の恩にも報いようとシヨオペンハウエルを右に、シルレルを左に学ぶ。

 その彼が、心優しさ故に、一人の少女に出会う。美しい少女エリス。この不運の舞姫との愛は深まり、必然のごとく学びは遠のく。

 まわりにも知られ、官職を解かれてしまう。ジャーナリストとなり世間への見識を広めていく豊太郎。そして、エリスの懐妊。

 その日常であっても、二人は幸せに満ちた家庭を築いたのかもしれない。けれど、彼は友の助言を得て帰国しようと決断する。それを知ったエリスの狂気。

 帰国した彼は、学問の深さと見識の広さ故、成功したであろうけれど、最後の二行に、私は彼の真の苦しみを見た。

 得難き良き友だが脳裏に一点の彼を憎む心が残る-と。

 この年になるまで、私はその人によかれと助言もしてきた。果たして、それは最善であったのだろうか。

 森鴎外が好きになると同時に、取り戻せないさまざまなことを思うと胸が痛い。

大阪市中央区 田中清子(83)

     ◇

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